折角の休業日に受付待機を命じられた。

よりによって、普段からイルカに尽くしてくれるカカシに、何かお返しをしようと決めていた日だった。

その待機もやっと終わって、カカシと合流したけど、まだ気持ちは浮上してこない。

「本当は自分で作った料理でカカシ先生をもてなしたかったんです…」

これから旨いと評判の寿司屋へ行くというのに、頭はだらりとうなだれる。

手料理をするにしても時間を掛けられないからと、昨日、少し高い寿司屋に予約の電話を入れた。

カカシの優しい手が、ぽんぽんと背を叩く。

「たまには外で食べるのも悪くないですよ」

背を叩いた手が、そのまま腰へ回され、自然に引き寄せられる。

これではイルカの方がカカシに慰められているではないか。

カカシだって、折角の休日にイルカと過ごせなくて残念がっているはずなのに。

たった一歳の年の差でこんなにも懐の深さが掛け離れているのが身に沁みて、余計に情けなくなってくる。

「なんか…、すいません…オレ…」

「気にしないで下さい」

ここが公衆の面前でなければ、カカシの胸へ抱き着いて、思い切り泣いてしまいたい。

そうやってカカシに縋る自分もまた情けないけれど。

充分接近しているが、もう少し近付きたくて、カカシの右腕へ擦り寄る。

「よしよし」

空いている左手でイルカの頭を柔らかく撫でてくれる。

甘えているのは承知だけど、甘やかしてくれるから、もっと甘えてしまう。

普段から、そういう傾向がある。

だから今日は、せめてものお詫びと、精一杯のお礼で。

「…今夜は…、あの、…いくらでも…お付き合いしますから…」

うなだれていた頭は俯き加減ぐらいには復活していたので、赤くなった頬は見つかってしまっただろう。

自分の発言の大胆さに、更に耳や首まで赤くなっていくのがわかる。

今まで、夜のカカシを満足させたという感覚が一度もない。

まだまだ続けられそうなカカシに罪悪感が募りながらも、限界の早いイルカは意識を飛ばしてしまう。

いつもイルカばかりが満足させてもらっているのだ。

「まぁまぁ。無理はしなくていいですよ」

カカシはそう言うが、今日はイルカの方がカカシに無理をさせる可能性があった。

実は、受付を出る前に遅効性の催淫剤を飲んできたのだ。

忍者の薬に対する耐性を考えて、少し多めに。

食事を終えて、家に帰り着く頃には、丁度良く効果を発揮してくれるように。

「…本当に今日は…」

「はいはい。わかりましたから。…じゃぁ、ちょっとだけ味見してもいいですか」

そう言ってカカシは、耳の裏の、柔らかくて敏感な皮膚に唇を寄せた。

「んっ、ふぁあ…、っ、カカシ先生っ」

口布越しの生温かさが余計にいやらしい。

カカシはイルカの弱い部分を知っていて、わざとそこを責めてくるのだ。

「ははは。冗談ですよ」

口付けられた箇所に心臓が出来たように、どくどくと音が聞こえる。

さっき赤面した時から、やたら全身の血行が良くなっていて、今の口付けでより一層良くなった。

足の先から頭のてっぺんまで、素早い動きで血液が巡っている。

心なしか、足取りが覚束なくなってきた。

何かが競り上がってくるような感覚に、カカシのベストをぎゅうっと掴んだ。

これは、もしかすると。

「今日は受付忙しかったんですか?」

「…い、いえ…別に…」

カカシの手が触れている腰骨辺りからも熱を発し始めている。

勝手に息が上がってきた。

「なんか、疲れてます?」

カカシが腰に当てている手でイルカを支えるように、ぐっと力を込めた。

イルカの体がびくりと震え、支えられたのに、逆に力が抜ける。

膝が崩れ、その場に尻餅を着いた。

「えっ!?イルカ先生!?ちょっ、大丈夫ですかっ」

「…もう…だめぇ…」

カカシのベストを掴んでいるのがやっとで、全身ががたがたと震え出す。

「駄目って…」

「…もっ…ガマン、でき…な、いっ…」

遅効性のはずなのに、飲んでから1時間も経たないうちに症状が現れるなんて。

服が肌に擦れる感触だけでもゾクゾクする。

体中が火照り、目に涙の膜が張る。

「…受付で何かあったんですか」

ぼやける目でカカシを見つめると、無表情の顔がイルカを見下ろしていた。

声まで冷たく感じて、別の意味で涙が込み上げてくる。

大して時間も掛かからずに、ぼろっと溢れた。

「俺っ…今日、何も…出来ないからっ、…せめて…カカシ先生に、満足っ、してもらっい…たくてっ…」

カカシの気配が、一瞬、張り詰めた。

真剣な表情で左右と前後を見回し、人気がない事を確認してから、屈んでイルカと目線を合わせた。

「自分で飲んだんですか?」

顔を近付け、二人だけに聞こえる音量で問われる。

何を飲んだのかを聞かなかったと言う事は、イルカが何を飲んだのか予想がついているのだろう。

カカシの腕へ両手で縋り付き、ゆっくりと一度頷いた。

縋る手をそっと外され、素肌が僅かに接触したせいで、体がびくりと震える。

同時に、鼻に掛かった吐息のような恥ずかしい声が出てしまった。

「…いやぁ、カカシ先生ぇ…」

「そんな目で見られたら…オレだって…」

黒い布に包まれたカカシの咽喉仏が、ごくりと上下した。

その動きがやけに淫らに見えて、更に欲を掻き立てられる。

カカシの太いものに串刺しにされる時の快感が蘇える。

朦朧とした頭は理性を無くし、本能の赴くまま、カカシの股間へ口を寄せた。

服の上からそこに吸い付く。

「っ!ああ、もう!」

カカシの焦ったような声と共に、強い力で体ごと剥がされる。

そこに触れられたのは口付けほどの短い間で、気付いたら景色が変わっていた。

受付から寿司屋への道を歩いていたはずが、今は日暮れ色の空とススキの穂しか見えない。

覆い被さるカカシの影で、視覚に入るものが極端に少ない。

「ごめん…余裕ないです…。ここでも、いいですか…」

成人男性の背丈を越えるほどのすすきが群生する、原っぱのような場所だと思う。

何も答えられないでいると、カカシの唇が首の辺りに下りてきた。

「あっ、あっ、あっ」

これではいけない。

今日はカカシを満足させるために、自ら進んで催淫剤を飲んできたのだ。

せめて、カカシに喜んでもらえる事をしなければ。

「かっ、カカシ、せんせっ、ちょっと、待って…」

「待てない」

イルカの腕を頭の上で器用に纏め、上着を擦り上げる。

あっという間に上半身が露わになる。

胸の突起は刺激を受けてもいないのに、すっかり尖り、天上を向いている。

カカシの舌に舐め取られるのを待ちわびているようだ。

ひんやりした空気が肌に触れ、それすらも刺激へ変わる。

そこへカカシの舌が降りてきた。

「ぁ、っあ、やぁ…、待ってっ…」

尖らせた舌で先端を突付かれたり、平らにした舌で巧みに突起を味合われたり。

「ああっ、んっあっ、はぁ!んっ、っあ、あ!」

人差し指一本を使って鎖骨や脇腹を撫で、迷いのない指先はとうとう下肢へ伸びた。

下着の中へ入り込んだ指が、勃ち上がった自身をゆっくりと伝い、先端で止まる。

もうびちょびちょに濡れて、ぱくぱくと息づいている。

親指で蓋をするようにあてがい、他の指で全体を握り込まれたと思ったら、容赦なく前後に動かされた。

「ああっ!だめっ、か、カカシっ、せんせぇ!」

先走りがカカシの手の滑りを良くする。

胸の突起には、舌と歯で強い刺激を送られる。

今日はカカシに尽くすと決めたのに。

カカシに喜んでもらおうと決めたのに。

これではいつもと同じではないか。

そう思っても、カカシの愛撫に慣れた体は、どうしようもなく昂ぶるばかりだった。

「やっ、だめぇ、出るっ…!放しっ…てっ!っあああ!」

しごく速さを増した手に責め立てられ、快楽に正直な体が白濁を噴いた。

荒い息を吐き、目に力を込めたつもりでカカシを睨む。

視線の意味をどう捉えたのか、カカシが下唇をぺろりと舐めた。

この表情は、イルカを乱れさせようという気になっている時の顔。

こうなったら、イルカにはもう何も出来ない。

カカシに食べられるのを待つだけだった。










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2004.12.31