※これだけでも読めますが、オフ本「いじわる」と軽く続いています。 教室緑化 夜9時を過ぎた。 イルカは今、カカシと入れ替わりで風呂に入っている。 数日前に寝間着の衣替えをしたそうで、脱衣所には浴衣が置いてあった。カカシの分も用意してくれたのだが、どうせ脱ぐ事になると思って袖を通していない。 イルカと浴衣。 やけに興奮する組み合わせだ。 イルカが風呂から出てきたら、きっと凝視してしまうだろう。その視線の意味に気が付いて恥らってくれたりしたら、もう言う事はない。 風呂場のドアが開く音がした。 脱衣所を覗きに行きたくなる気持ちを抑え、ベッドに腰掛けたままじっと待つ。 ひたひた、という湿った足音が聞こえた。しかし、カカシの期待とは裏腹に、イルカは台所へと行ってしまった。流しから水音が聞こえ、肩透かしをくらったような気になる。 焦らしているのかと疑いたくなるが、イルカがそんな手管を持ち合わせていない事はカカシも承知している。 唐突に、コップを水きり籠に置くような音がした。 今度こそ。 待ちに待ったイルカが、カカシの期待に応えてとうとう薄暗い寝室に姿を現した。 「またそんな格好で。風邪ひきますよ」 すぐ裸になるつもりだったから、カカシは腰にタオルを巻いただけの格好で何も身に着けていなかった。イルカはその事を指摘したのだ。 浴衣姿のイルカに言われると、妙にどきどきする。 実際イルカは、カカシの想像以上だった。 風呂上がりのしっとりした肌に浴衣の生地が張り付いて、イルカの体を薄皮一枚で包んでいるような危うさを秘めている。イルカが寝室に入ってきて、カカシの隣に座っても、まだ目が離せない。 タオルで髪を拭うイルカの腿に、そっと手を置く。 「風邪なんてひきません。これからイルカ先生と一緒に熱くなるんだから」 浴衣の裾からこっそり手を忍ばせると、それだけでイルカは体をびくつかせた。頬から首にかけて、唇を落としていく。 「カカシさん…」 イルカに体重を掛け、ベッドに押し倒そうとした、その時。 玄関から、控えめなノックの音が聞こえてきた。途端にイルカは身を固くして、カカシの腕から逃げてしまう。 この状況で、イルカは律儀に来客へ応対するというのか。 残念に思いつつ、しかし大人しくイルカの背中を見送った。 「お願いですから、その格好で出てこないで下さい」 寝室を出る前にそう言い残し、イルカは玄関へ向かった。 言われなくても出て行ったりしないのに、どうしてわざわざ一言付け加えたりしたのだろう。もしかして、イルカは来客が誰かわかっていて、その上でカカシを足止めさせる必要があると判断したのだろうか。 「夜分遅くにすみません」 来客の声には聞き覚えがあった。 「いえ、大丈夫です。何かありましたか」 イルカは突然訪ねてきた相手に驚きもせず、平然と応じている。 「あ、風呂上がりですか?なんか良い匂いがしますね。…えっと、フタバとダイチの事なんですが」 フタバとダイチとは、確かイルカの教え子の名前だった。 それよりも、仕事の話なら、風呂上がりとか、良い匂いとか、そんな事は関係ないじゃないか。例え気付いても黙っていればいい。 「フタバに苗木チームの班長を任せようと思うんですけど、どうですかね」 「いいですね。あの子は少し控えめな所があるから、たまには先頭に立たせてみましょう」 「あと。ダイチはノボリと離して土作りチームに入れようと思うんですが」 「そうですね。ダイチは土の相性を感覚で掴んでますから。ノボリは体格がいいから支柱チームのままの方が助かりますし」 「…なんかイルカ先生って髪下ろすと色っぽくなりますね。浴衣も…お似合いです」 また余計な事を。 来客が鼻の下を伸ばしている顔が易々と浮かび、もう我慢できなくなった。自分が恋人である事を主張するために、イルカの言い付けを破ってベッドを離れた。 来客の目がカカシに向けられる。 「…っ!先輩っ」 テンゾウの呼び掛けに、イルカがさっとこちらに振り返った。もちろん、腰にタオルを巻いただけの格好に変わりはない。 イルカの顔が沸騰したように赤くなる。 風呂上がりのイルカと、全裸に近いカカシの姿に、テンゾウは何を思い浮かべただろう。 「オレたち忙しいんだけど、まだなんか用があるの」 イルカはテンゾウの方へ顔を戻せないようで、こちらを向いたまま恥ずかしくてたまらないという顔で目を伏せている。 「お、終わりましたっ、失礼しますっ」 テンゾウにしては珍しく、慌ただしい足取りで玄関を出て行った。ドアが開いたままになっている。 しばらくしてからイルカがそこを閉め、深い溜め息を吐きながら寝室に戻ってきた。そこですかさず問い掛ける。 「こんな時間に話すような事なんですか」 「明日の授業の事なんです。里が推進してる緑化計画の一環で、教室の窓を緑化するっていう」 その計画ならカカシも知っている。テンゾウが総指揮を執っている大きなプロジェクトだ。 だからといって、恋人との睦みを中断してまで付き合うほどの事なのだろうか。カカシよりも仕事やテンゾウを優先されたようで、何だか腑に落ちない。 それにイルカには、以前からテンゾウには注意してくれと言っているのに、一緒に仕事をする事もカカシには教えてくれなかった。 「あいつと組むなら、そう言ってくれればよかったのに」 イルカがカカシを通り越してベッドに腰掛ける。そのまま背中から倒れ込み、腕で目元を覆った。 浴衣の裾から、ちらりとイルカの脚が覗く。 「ヤマトさんの事になるとカカシさんが気にするから…。でも…だからって…あんな格好で出てこなくても…」 カカシの目の前で、すっかり無防備な姿を晒すイルカに、何の前触れもなく覆い被さった。裾から手を入れ、じかに内腿を撫でる。 イルカの体がびくりと跳ねた。 「…今日は…止しませんか…」 消え入りそうな声で訴えてくる。 構わずに、カカシは熱くなった自分の股間をイルカのそこに押し付けた。 「無理です。イルカ先生もわかるでしょう…?」 耳たぶを食みながら、わざと低い声で囁いた。唇を滑らせるようにして、ゆっくりと肌を撫でていく。それが咽喉元まで辿り着くと、きつめに吸い付いて、忍服を着ても隠れない位置にくっきりと痕を残した。 明日、太陽の下、テンゾウや生徒たちに囲まれて、カカシとの激しい夜を思い出したらいい。 少し意地悪な事を考えながら、更に秘められた場所を探るべく、指先をじわじわとイルカの奥へと忍ばせていった。 |