ずっと片思いしていた相手から、愛の告白をされた。

『好きです』

繰り返し何度も見た夢と同じだった。

まず疑った。

でも、これは現実だった。







カカシの告白がきっかけで、イルカは想い人と付き合う事になった。

告白された時、イルカは恋心を見透かされ、それを逆手に取ったからかいだと思った。

告白された直後にイルカの方からも今までの思いを告げると、カカシは目元をさっと染め、口布の上から手で口を押さえた。

歓喜の驚きなのだと、すぐにわかった。

完全に信じる事は出来なかったが、素直に嬉しかった。

日が経つに連れ、徐々にカカシが本気で好きになってくれたのかと思えるようになり、イルカも覚悟を決めた。

これまではカカシに対して控えめに接していた態度を、イルカの方からも強い姿勢でカカシと向き合う事にしたのだ。

イルカはカカシを全力で愛すると心を固めた。





それから大した時間もかからないうちになぜか、階級差を気にせずに軽口を叩けるという間柄になっていた。

端から見たら仲の良い友人。

でも本当は恋人同士。

カカシが意外にも冗談や悪ふざけが好きな人であることがわかり、そんな一面も見せてくれるのだと喜んでいた。

約束をしたわけでもないのに習慣になった事もある。

任務が終わったカカシがイルカの仕事が終わるまで待ち、一緒に帰路につく事。

暗い道を二人で歩く時は、どちらともなく手を繋ぐ事。

今日はイルカからカカシに手を伸ばした。

カカシの指の節を掠め、手を捕まえた、と思った。

しかし、なぜか巧く手を繋ぐ事が出来ず、イルカの指が宙を遊ぶ。

偶然かと思ったイルカは、再びカカシの手を捕まえるために腕を伸ばした。

すると今度は巧みに逃げられ、はっきりと拒否されたのだと認識する。

なぜだ。

イルカは腰に手を当てカカシの前に立ちはだかった。

無意識に唇が尖っていたかもしれない。

「カカシ先生!」

正面から右手でビシッと指を差す。

人を指差すのは良くない、とアカデミーでは教えているのに。

「ど、う、し、て、避、け、る、ん、で、す、か!」

「あははー。怒ったー」

「コラ!笑い事じゃありません!」

カカシはイタズラが成功した時の子供のような顔をした。

「あのねぇ!手を繋ぐって事は、それだけ相手を近くに感じていたいとか、ずっと一緒にいたいのに、とかそういう大切な思いが込められているんです!それを何ですか、あなたは!」

「ごめん、ごめんなさい。…もう許して?」

弱々しい上目遣いで見つめてきたので、うっとなってつい気を緩ませた。

その隙を突いたカカシが、強い力でイルカの手を引いた。

咄嗟の事で狼狽えると、イルカの体がカカシにすっぽり包まれた。

カカシのキスが額に降りる。

続いて、こめかみ、鼻先、頬、そして唇へ。

「イルカ先生が可愛いから。ついね、つい」

ヘラヘラ笑うカカシがそっとイルカの手を取り、指を絡めた。

ようやく手が繋がる。

そのままカカシ宅とイルカ宅の分岐点まで歩いた。

カカシがイルカの手をぎゅっと握り、名残惜しさで切なくなったイルカが目を閉じ、カカシにキスをせがんだ。

今度は手を繋ごうとした時のように焦らされる事は無く、唇を貪られた。

「っは、…は…っ」

カカシが唇を離す頃にはイルカはもう熟れていて、腰に回っていた腕を放されたら立っていられないほどだった。

お持ち帰りコースにしてもいいか、という提案をされて、暗がりでもはっきりわかるぐらい赤面した。

俯き、弱々しく頷くと、捕って食う勢いでカカシに連れ去られた。







* * * * *







昼休みの食堂で誰かが話している声が聞こえた。

単なる偶然だろう。

「注意とかしてくる気の強いオンナって最初は可愛いけど、繰り返されるとマジ欝陶しいよな」

騒がしい昼の食堂で、なぜ耳がそんな会話を拾ったのか。

イルカは自分に対して言われているような錯覚に襲われ、身動きがとれなくなった。

もちろんイルカは女ではないが、カカシにとったら『気の強い』という件が重要であるわけで、それには男も女も関係ない。

どうあがいてもカカシの方が階級が高いわけだし、下の者から注意されれば、いくら相手がイルカでもおもしろくないだろう。

「へへっ。お疲れ様です、イルカ先生」

そこへ突然、頭の中をぐるぐる回っていた張本人が現れた。

「カカシ先生!」

「任務が早く終わりまして」

イルカを前にするとデレデレするのがカカシの悪い癖だと思う。

目尻も口元もだらしなく弛んでいる。

珍しく昼に逢えたというのに第一声はイルカの名ではなく、弛んだ笑い声だったし。

「おおっ、きつねうどん定食ですか。ん…、やっぱりココの揚げはうまいですね」

カカシはイルカの丼から食べかけの油揚げを取り、周囲を憚る事無く口に入れた。

「そっ…!」

『…気の強い…欝陶しい…』

「そ?何ですか、イルカ先生」

へらへら笑いながら問い掛けてきた。

いつものイルカなら、

『何やってるんです!アナタは子供ですか!』

『意地汚いでしょう!それでも教師ですか!』

と返していたところだ。

『…気の強い…欝陶しい…』

「…食べたいなら…言って下されば、口を付けていない方を差し上げたのに」

どうしてカカシは人の気も知らないでイルカを怒らせるような事をやり放つのだ。

特に今は、そっとしておいてほしかったのに。

いつもと違和感が無いように、上手く誤魔化せただろうか。

「…?…。そうですか」

「カカシ先生は焼き魚定食ですか」

話題を変えるためにカカシのトレイに話を振った。

嘘を吐くのが苦手なので、何か詮索されたらボロが出てしまう。

「ええ。イルカ先生の手料理には及びませんが、なかなか旨いんですよ」

「ぷっ。悪かったですね!料理が下手で!」

「いいえ!」

カカシの冗談を普段通りに返せた。

これでもう先程の影は消えたように見えたはずだ。

「今日も仕事が終わるまで待ってますから、残業は控えめにして下さいよ?」

「え?今から夕方まで待ってるんですか?」

「イヤですか」

「とんでもない!一緒に帰れるのは嬉しいです!でも、あと5時間ぐらいはありますよ…?」

「大好きなイルカ先生の為なら何でも出来ますから」

カカシはふざけた調子で安っぽい台詞を安っぽく口にする。

負けじと、イルカも安っぽい言葉を投げた。

「じゃぁ今日はカカシ先生の愛を確かめるために、いつもより多く残業する事にしますね」

「どうぞ!どうぞ!オレの愛は無限ですから!」

「あはは」

本当にカカシは冗談が好きなんだと、イルカは認識を新たにした。







昼休みに『愛は無限』なんて事を言われた手前、イルカは意地悪くカカシを試すのもいいかと考えていた。

しかし現実にはそんな可哀相な事は出来ず、ほぼ定時で帰る運びとなった。

待ち合わせ場所へ行くと、カカシはしてやったりという顔をした。

「随分早かったんですね。さては、オレの愛の深さを見くびったんでしょう」

ちょっと悔しくて、意趣返しとばかりに唇にキスしてやろうとカカシへにじり寄った。

カカシはキスの時に目を瞑るのかというのが気になり、イルカは目を開けたまま顔を近付けた。

するとなぜかカカシの眉間に皺が寄り、とても嫌そうな顔をした。

「やめて下さいよ。気持ち悪いなぁ」

どうしてそんな事を言われるのかわからず、ただカーッとなった。

『気の強い…欝陶しい…』

「…すっ、すいません…」

何かに打ちのめされたような感覚に足がふらついた。

カカシの顔がまともに見れず、イルカは自分のつま先を見つめた。

「…いえ」

気まずい空気に包まれ、いつもの帰路がやけに長く感じた。







イルカが自宅の玄関に着いた頃には、地面が抜けたような脱力感に襲われていた。

別れ道でカカシは社交辞令か習慣か、『また明日』と言った。

今日と同じ明日があるのなら、そんなもの来ないでほしい。

明日逢った時に、ちゃんとお詫びをしたら許してもらえるだろうか。


















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2003.02.22