好きで好きで堪らなくて、でも男同士というのに抵抗があって、なかなか踏ん切りがつかずに悩んでいた。

イルカの性格はわかっていたので、きっと思いを打ち明けたら嫌悪されると思った。

親しく接しているうちに、イルカも自分に心を開いてくれたようで、お互いの家を行き来したり、一緒に飲みに行ったりするようになった。

自家で食事をする頻度は、カカシ宅よりもイルカ宅の方が多かった。

イルカの家の方が調理器具や調味料が揃っていたからだ。

ある日、アスマに任務のみやげでもらった大吟醸を持ってイルカの家へ食事をしに行った時だった。

チャイムのないイルカ宅のドアをノックすると、エプロンをしたイルカがひょこっと出てきて、こう言った。

「ああ、おかえりなさい、カカシ先生」

「…あ…、ただいま…、イルカ先生」

さも、当たり前のように。

イルカは任務から戻ってきた自分におかえりなさいを『お疲れ様』という意味で使ったのだとは思う。

しかし、それが原因でカカシの堪忍袋の緒が切れてしまった。

「イルカ先生、オレ、あなたの事が好きなんです」

「…!…、あ、ああ、はい」

一瞬、目を見開いてびっくりしたイルカだったが、何かを思いついたようで、すぐに平静を取り戻した。

「今、夕食の準備をしていたところだったんですよ」

「イルカ先生、オレ、あなたが好きなんです」

イルカの二の腕を掴んでにじり寄る。

「恋とか愛で好きなんです」

「えっ…」

イルカの体を引き寄せて、背中に腕を回す。

肩口に顎を載せ、耳元で囁いた。

「イルカ先生が、好きなんです」

イルカの顔が見る見る赤くなり、耳や首まで真っ赤になった。

なぜ、赤くなる?

普通、同性に告白されたら青くなるものではないか?

「カ、カカシ先生…、実は…俺も…」

「俺も…、何ですか?イルカ先生」

「カカシ先生が…好きです…」

改めてイルカの顔を覗き込む。

今度はカカシが目を丸くしてイルカを見つめた。

イルカは真っ赤になって目を泳がせている。

幻聴かと疑った一瞬を、馬鹿だったと思った。

恥ずかしそうにしているイルカが、すごく可愛い。

「イルカ先生も、オレと同じ意味でオレの事好きって事ですよね…?」

「…はい…」

「…イルカ先生…」

「…?…」

「大好きですから…。離しませんから…。大切にしますから…」

確かめるようにゆっくりと腕を回し、イルカをぎゅっと抱き締めた。

「俺だって…、カカシ先生…」

震えているイルカが、弱々しくも精一杯抱き締め返してくれた。

不覚にも、嬉しくて涙が出た。

今まで生きてきて、色々な苦しい事があった。

でもそれは、イルカとこうなるために必要な苦しさだったのだと思うと、並ではない苦しみを経験してきて本当に良かったと思った。

どうしようもなく興奮してしまい、勢いでイルカに口付けた。

「んっ…」

やわらいかイルカの唇を存分に味わい、舌で歯列をなぞった。

イルカがびくりと震える。

怯んだ隙に薄く開いた歯から舌を侵入させ、イルカの舌を絡め取った。

「っう…、はっ…ん」

無駄に経験を積んでいる体は、相手がたとえイルカでも、いつもの手順で動き出す。

イルカのうなじに手を差し入れ、愛撫する。

体温の上がった肌は僅かにしっとりとして、カカシの指に吸い付くようだった。

角度を変え、舌でイルカの口内を散々かき回す。

飲みきれなっかった唾液がイルカの顎を伝った。

「…っ、…はぁ…はぁ…」

「イルカ先生、かわいい」

ようやく開放すると、イルカは息を整えるために荒い呼吸を繰り返した。

後ろ手にドアを閉め、手を使わずに靴を脱ぎ、目を潤ませるイルカを寝室へ運んだ。

「カカシ先生…?」

不安げな顔をしているイルカを安心させるように、額に優しくキスを落とした。

イルカの背中を支えながらベットに横たわらせる。

「…優しくしますから…」

これまでにないくらい興奮していて、これから始まることに期待し、胸を膨らませている自分がいる。

今、カカシの目は血走っているかもしれない。

そんな自身の事もわからないぐらい、とにかく高揚している。

「カカシ先生…?」

小動物が生命の危機に晒されている時の目をして、イルカが見つめてきた。

涙で瞳が揺れている。

「…あっ…」

清らかなこの人に似つかわしくないような艶を含む声。

服の裾から手を侵入させ、肌を滑っただけでこれだ。

長くは保たない、と思った。

荒っぽく衣服を剥ぎ取り、桜色の乳首を舌でころがした。

きめの細かい肌は、誰かに触れられるのを待っていたようでもあった。

「…っあ…、あんっ…やっ、ん…」

空いている方の乳首を指で摘み、捏ね回す。

宙をさ迷うイルカの手を取って、カカシ自身に導いた。

ソコはすぐにでも暴発しそうなほどに張り詰めている。

イルカはびくりと震え、快感で途切れがちになった意識を、何とかカカシに戻した。

「…いやっ…、むっ、ムリですっ…」

口ではいやいやと言いながら、イルカ自身はしっかりと勃ち上がっていた。

先端からは先走りが溢れて、ぬらぬらと光っている。

我慢できず、肉食獣の如くイルカのそれにかぶりついた。

「…きゃっ…、やぁんっ…あっ、あっ、あっん…」

くぼみを舌でなぞると、イルカの体が面白いように反応した。

容赦なく続けていると、イルカつま先がぴんと張り、腹筋が波立った。

「…ああっ、あっん…、ああああっ!」

カカシの口の中に苦い味が広がった。

イルカが放ったものを少しだけ口内に残し、大半を手に出した。

それをイルカの後口へ塗り込める。

初めてのイルカの味を忘れないように、残りはよく味わって飲み込んだ。

イルカを俯けに寝かせ、双丘の間に顔を埋める。

「ひっ!…いたっ、いっ…、…っう…」

傷付けないように、指と舌を使って丁寧に入口の襞からほぐす。

指を一本増やし、不規則な動きで中を掻き混ぜた。

「…っあ…、あ、あ…」

萎えていたイルカの中心が、再度、芯を持ち始めた。

前への愛撫を仕掛けるのと同時に、三本目の指を埋め込む。

二本の時よりも更に巧妙な動きができ、イルカを激しく攻め立てた。

「…カ、カカシ…、センセ…」

上気した頬や、涙を溜めた瞳に否も応もなく煽られる。

「イルカ先生、痛かったら言ってね…」

「ああっ!…あああっ…、くっ、ん…」

とうとう精神と肉体の限界を越え、イルカの後ろに自身を押し当て、一気に挿入した。

「力抜いて」

「…はぁ…っ…」

全部が納まるまでが一瞬だったような、一時間だったような。

どちらにせよ、イルカの中はとても温かくて、しばらくはその心地よさに浸った。

だが、そんなものでは足りないと、カカシの雄は叫び出す。

イルカの前を再び握り込む事で注挿の合図とした。

「…あ…、もっと…ゆっく、り…」

「ごめん…、ム…リ…、…くっ…」

一度暴れ出すと、もう抑えが利かない。

イルカの最奥を目指して、深く強く穿っていく。

イルカの内壁は淫らに絡みついて、カカシを咥え込んで離さんとする。

「あぁ、…はぁん…、あっ…、ああっ…」

引っ切り無しに響くイルカの喘ぎ声に、どんどんカカシの欲が刺激される。

イルカの顔が見たくて体を反転させてやると、自身の角度が変わって更に奥へと進んだ。

その衝撃でイルカの締め付けがより一層キツくなり、射精感が一気に高まった。

「いやぁ…!あんっ、ああっ!…カカシ、先生っ!…」

「くっ…」

「…っあ…、あああっ!」

どちらが先かわからないほど、カカシは思いきりイルカの中へ熱を放った。

繋がったまま、イルカの顔にキスの雨を降らせる。

イルカの目は、行為の余韻で焦点が合っていない。

どこか儚げなその姿に、カカシの下半身は簡単に力を取り戻した。

「好き…。イルカ先生…」

「あ…」

カカシの変化を感じ取ったイルカは、茹ダコのように真っ赤になった。

「今日は…もう…、…出来ませ…っ!…あんっ!…やぁ…」

射精後で敏感になっているイルカのソコは、快感に素早く反応した。

口からのささやかな抵抗は、再び律動を開始したカカシに阻まれて意味のないものとなった。







* * * * *







自己嫌悪。

見るからに初めてのイルカに無理をさせて、昨晩は2回も3回も、いや、本当は4回も致してしまった。

だが、それでも足りないと感じている自分がいて、色魔にでも囚われてしまったのかと悩んだほどだ。

今日もイルカは平常通りの勤務が入っていたのに、起き上がれなくて、止む終えずアカデミーへ欠勤の連絡を入れた。

「イルカ先生…、本当にすみませんでした…」

目が覚めてから何度口にしたかわからない言葉を、今また口にした。

「いいんですよ。…その、俺だって…望んだ事でしたから…」

「イルカ先生…!」

照れながら苦笑するイルカからどうしても離れ難くなったが、『カカシ先生は任務に行って下さい』というので、渋々出掛ける事にした。







すごく満たされている反面、申し訳ないと思うのも事実で、胸中複雑だ。

イルカも望んだ事だったと言ってくれたが、昨日は雰囲気に流されてしまったという感じがどうしても拭い切れない。

だって、告白して即、肉体関係だなんて。

あんなにきれいな人を穢してしまったようで、とにかく申し訳ないさで一杯だった。

本当は後悔に近い感覚も湧いていた。

自分なんかが彼を抱いてしまってよかったのか。

イルカは不快に思わなかっただろうか。

おそらく今までに、似たように抱いた女も男もいたと思う。

その過去がカカシの中で大きなわだかまりとなって、胸の中に痞えていた。

イルカがそれを知らないだろうと思うと、更に気持ちが重くなった。







「カカシ先生!一緒に報告書出しに行こうってばよ!」

「何よ、急に。さっき解散かけたでしょ」

数分前に部下達と別れ、報告書の記入事項を頭の中でまとめながら受付へ向かっていた時。

ナルトが腰に纏わりついてきた。

「オレ、たまにはイルカ先生に一楽おごろうと思って…。でもなんか、一人だと心細くって」

「へぇ…」

ぎゅうとしがみつく細い腕が、なんだが微笑ましかった。

でもイルカは今日、家で寝ている。

「残念だけど、イルカ先生、今日は病欠」

「えー?それホントかー?」

「ホント」

ナルトはぐったりして、のろのろした動作でカカシから離れた。

「じゃぁな、カカシ先生」

「ああ」

イルカがいないとわかると、随分アッサリしたもんだ。

まぁ、それは自分も変わらないか。

だって今日は、自分のせいではあるが受付に行ったってイルカはいない。

とっとと報告を済ませて、イルカの様子でも看に行こう。

ああ、でも、イルカに会わせる顔がない。

というか、会う事を遠慮してしまう。

今まで勢いで一夜を共に過ごして、それから先も関係を続けたという事は一度もないから。

かつて関係を持った人間とは違い、イルカを好きだという思いは本物なのに。

どういう顔をして会いに行ったらいいのか、全然わからない。

すごく気まずい。

結局カカシはこの日、イルカの家へ行く事は出来なかった。
















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2003.04.18