中忍になって2年が経ち、念願だった教師になって初めての夏休み。 まだ新人だったイルカは、1ヶ月半の中期任務に就く事になった。 依頼内容は、海の家での接客や調理補助。 本来なら下忍に振り分けられる仕事だが、調整が付かなくてアカデミーの職員に回ってきたのだ。 そういう事はよくあるようで、しかも暗黙の了解で新人が担当すると決まっているらしい。 中忍の仕事ではないかもしれないが、里の収益に繋がるので、半強制でも休暇返上でも、イルカには苦ではなかった。 依頼主である店主も、イルカの働きぶりにとても満足してくれた。 イルカの働きぶりというよりは、忍の働きぶりに満足してくれたのだろう。 謙遜でも嫌味でもなく、単純にそう思っていた。 でも、それが良い意味で間違いだったと気付かされたのが、翌年の夏。 同じ依頼主から、同じ仕事の依頼が入り、しかも追加料金を支払ってまでイルカを指定してくれたのだ。 まだまだ下っ端の中忍に指名の任務が入る事なんて、滅多にない。 仕事内容は別としても、忍としてやっと一人前になれたような気がした。 だからもちろん、喜んで任務を引き受けた。 * * * * * あっという間に1ヶ月が過ぎ、任期は残り2週間を切った。 ついつい開店前の掃除にも熱が入ってしまう。 「あのー」 声がした店先に顔を向けると、一人の男が立っていた。 来客の気配に全く気付けなかった。 一般人よりも感覚が鋭いので、いつもならどの従業員よりも早く応対できるのに。 「ここって、もう入れます?」 ぼさぼさの頭に、不健康そうな白い肌。 とてもじゃないが、南国には不似合いな雰囲気の漂っている男だった。 連れ合いの人もいないし、近所の人には見えないけど旅行鞄も持っていない。 「早く着き過ぎちゃって、まだホテルにチェックインできなくて」 それなら荷物だけはクロークに預けてきたのだろう。 どうも職業柄、安全な人かどうかを検分する癖がついてしまっているようだ。 「まだ開店前なので忙しないですけど、それでも良ければどうぞ」 男は薄っすらと微笑んで、店で一番涼しい奥の座敷に上がり込んだ。 ポケットから文庫本を出し、前屈みになって読み始める。 用があれば声を掛けるだろうと思って、特に気にする事もなく開店準備を再開した。 男はやけに存在感が薄くて、呼ばれた時に居る事を思い出す、という感じだった。 一度目に呼ばれた時は、開店直後に飲み物を、二度目の時は昼食を注文された。 そして三度目が飲み物の注文。 太陽が傾いてきて、砂浜の混雑もだいぶ緩和し始めた頃、男がすいません、とまた声を掛けてきた。 そろそろホテルのチェックインができる時間だから、会計をするために呼んだのかもしれない。 それでも一応は追加注文に備えて、伝票とペンを構えながら席に近付いた。 「ねえ。おにいさん」 予期しなかった言葉に、ぱっと顔を上げる。 「仕事が終わってからでいいから、この辺りを案内してよ」 初対面のイルカにも馴れ馴れしく話してくる口調から、男の職業に見当が付いた。 きっと、夜の街で女性客をたらし込む仕事をしているに違いない。 背は高かったし、よく見れば顔立ちも整っている。 髪型や服装を改めたら、上等な男に変身しそうだ。 「それなら地元のガイドを紹介しま…」 「あなたがいいの。終わるまで待ってるからさ」 「いや、でも…」 「待ってるから」 「あの俺…」 「だから。待ってるって」 言い募るごとに、男の語気が強まっていく。 イルカが黙り込んだ事を了承と捉えたのか、男が何事もなかったかのように本に視線を戻した。 無理なのに。 だって、この辺りの事をほとんど知らないのだ。 無意識に唇をアヒルのように尖らせていた事に気付いて、慌てて収める。 なんて強引な男なのだろう。 どうしようかと悩んでいると、店先に来客の気配がした。 小さな溜め息を零して持ち場に戻る。 もしかしたらイルカの仕事が終わるのが遅すぎて、諦めて帰るかもしれない。 いつも夜の10時ぐらいまで働いているから。 存在感の薄い男が知らぬ間にいなくなっていますように。 心の中で、秘かにそう呟いた。 人けのない岩場の陰に横たわり、潤む視界でぼんやりと星を眺める。 任務中に、こんなふうに星を眺める機会があるなんて思わなかった。 「…っ…ぁあ、はっ…ぁ…」 脱がされた服で手首を拘束され、上半身の自由が奪われた。 膝丈のズボンも、下着と共に足首に絡まって足枷に変わっている。 それに加え、大きく広げられた腿の間から男に圧し掛かられて、まともな抵抗ができない。 「イイ声…。オレもうヤバイよ…」 生温かい吐息を耳元に吹き付けられただけで、体がびくりと震えた。 太くて固くて熱いものが、イルカの体の内側で脈打っているのだ。 恥ずかしい格好で散々ほぐされた後孔は、信じられないほど柔軟だった。 男が強引にイルカに案内を頼んできたのも、始めからこういう事が目的だった。 それを見抜けなかった自分が情けない。 でも、それ以上に。 一般人に易々と組み伏せられた事が何よりも情けなかった。 中忍になって、もう3年も経つのに。 なぜかチャクラを練る事もできなくて、ただただ自分の無力さを痛感していた。 男のものが、じわり、と動き出す。 最後の抵抗のつもりで開けていた目を、そっと閉じた。 どんどん動きが激しくなる。 痛みではないものを感じ始めている自分の体が怖かった。 二人分の荒々しい呼吸と、結合部から聞こえる粘着質な音で、頭の中まで沸騰しそう。 「ぁ…はっ、ああっ」 男の親指に陰茎の先端を抉られ、抑えていたものが一気に溢れ出た。 瞬間的に内部の質量が急増し、最奥に勢いよく何かを叩き付けられた。 意識が戻った時、イルカは見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。 自分がこんな所にいる理由がわからなくて、何度も目を擦る。 そこに、腰にタオルを巻いた男が、髪を拭きながら現れた。 「起きちゃったの?体はきれいにしといたから、もう少し眠りなよ」 イルカの枕元に来てベッドに腰掛けると、至近距離から顔を覗き込まれた。 咄嗟に両腕で顔を覆う。 「かわいいなあ」 髪を梳く優しい感触に、恐る恐る腕を解いていく。 「オレの恋人になってね」 邪気のない笑顔を向けられて言葉を失った。 それから1週間。 イルカの仕事が終わる頃にやって来ては、毎晩ホテルに連れ込まれた。 そして1週間が過ぎると、男はぱったりと姿を見せなくなった。 一週間の内にイルカが知り得たのは、男の名が『カカシ』であるという事だけだった。 |