簡単な応急処置をして、急いで野営地へと戻った。
もちろん、自分勝手な行動に対する隊長からの厳しい叱責を覚悟していた。
しかし、結局それは、いつまで経ってもイルカの元へやってくる事はなかった。
もやもやした気持ちを抱えたまま無難に初日の仕事を終え、就寝時間という自由時間を与えられると、イルカはすぐに結界内にある川原へと向かった。
左腕に負った傷の手当てをするためだ。
大きな石の上に腰を下ろし、腕まくりをする。
包帯を解くと、傷口にはまだ血が滲んでいた。
あの暗部が通り掛らなかったら、今頃はこの程度の傷では済まなかっただろう。
それと同時に、暗部に言われた言葉の数々を思い出した。
悔しくて情けなくて、瞬く間に涙が溢れてくる。
さあっと音を立てて通り過ぎた風が、イルカのすすり泣く声を隠してくれているようだった。
「あの…」
風の音に紛れるような声で後ろから声を掛けられ、素早く振り返った。
全く気配に気付けなかった。
風の冷たさを頬に感じて、持っていた包帯で慌てて涙を拭う。
「ご…ごめんね。さっきは言い過ぎました」
狐の面をした男が首の後ろに手を回し、ぽりぽりと頭を掻いた。
「中忍になって初めての任務だったんだってね」
指先に装着していた鋭い鉤爪がないだけで、昼間に会った時とはまるで別人に見える。
男が音もなく歩み寄って来てイルカの隣に腰掛けようとしたので、咄嗟にその場から飛び退いた。
不意な動きで痛んだ腕を庇い、漏れそうになった呻き声をぐっと飲み込む。
「あっ、座ってて」
「いえっ、どうぞお掛け下さい。俺は…失礼します…ので…」
一礼して踵を返す。
「…手当てぐらいさせて下さい。一応は総大将として、近辺の警戒を怠った上に部下に怪我をさせた責任、感じてるんですから」
いつの間に移動してきたのか、後ろから両肩にそっと手を掛けられた。
総大将として。
部下に怪我をさせた責任。
イルカがその言葉に呆然としている間に、さっきまで座っていた石の所まであっさりと連れ戻されてしまった。
上から軽く肩を押され、すとんと石の上に腰を下ろすと、その隣に暗部の男も並んで腰を下ろした。
「隊長たちにはオレから報告してありますから、傷が良くなるまでは無理しないで…」
そういう事だったのか。
どうりで仕事中に何の咎めもない訳だ。
そういえば、大鍋を運んだり水を汲んだりする業務からは、それとなく外されていた。
たまたま他の業務を任されただけだと思っていたけど、そうではなかったのだ。
全て、この暗部が裏で手引きしていた事。
そんな事も知らないで仕事をしている気になっていた自分は、なんて惨めなのだろう。
つくづく自分の無力さを痛感した。
「本当に申し訳ありません…。何から何までご面倒をお掛けしてしまって…足手まといになってばかりで…」
自分で口にすると余計に情けなくて、また涙が込み上げてきた。
それを慰めるかのように、暗部の男が背中を撫でてくる。
こういう時に優しくされると、我慢できなくなるじゃないか。
「誰だって最初は失敗が付き物です。あんまり気にする事ないよ…」
その言葉が決定打だった。
泣き顔を見られないようにと深く俯き、怪我をしていない方の手で目元を覆う。
するとその時になって初めて、暗部の男の気配が動揺したように僅かに動いた。
背中に触れている手から、彼の指先の震えが微かに伝わってくる。
「て、手当てを…しますね…。しょ、消毒の代わり…だ、から…ちょっとだけ…」
急に声まで震わせて、暗部の男が明らかに動揺し始めた。
でも手当てをする気に変わりはないようで、二の腕の内側に添えられた手で腕を持ち上げられる。
そして、傷口に何か温かいものを当てられる感触がした。
ぴりっ、ぬるっ。
「…んっ」
過去に経験した事のない感触に、変な声が漏れてしまった。
涙目を擦って傷口を見ると、銀色の頭がぴったりとイルカの腕に張り付いていた。
イルカからは男の顔が見えないように、上手く面をずらしている。
何をしているのだろう。
それを考えている間も、傷口からの感触は絶え間なく続いている。
そして、その行為の正体に気付いた時、体がびくりと大きく揺れてしまった。
傷口を舐められている。
というか、その周囲も含めて丹念に舐め回されている、と言った方が正しいかもしれない。
時折、ぴちゃ、と響く水音に、痛みだか何だかわからないもので背筋がぞくぞくと震えた。
「やっ、もうっ…」
大丈夫です、と続けようとした所で、その感触が離れていった。
「ご、ごめん。つい…」
それからは始終無言で処置をして、包帯を巻き終えると、暗部の男は来た時と同じように音もなく姿を消した。


* * * * *


「…あの時の暗部って…カカシさんだったんじゃないですか…」
情事後の疲労をカカシに茶化されないように、呼吸を整えてから口を開いた。
「なんだ覚えてたの?恥ずかしいなあ」
全然恥ずかしそうに見えないカカシが、そう言いながらイルカの胸に頬擦りをしてきた。
するすると何往復かして動きを止めたと思ったら、今度は胸の尖りに舌を伸ばしてくる。
名残で敏感になっているそこは、カカシのいたずらにも相応の反応を示してしまう。
「やめっ…」
「腕を舐めただけで我慢したオレって、けっこう紳士的だったでしょう?まだ若かったし、あのあとテントに戻ってから大変だったんですよ」
そう言って、イルカの太腿にぐりぐりと股間を押し付けてきた。
その硬度に息を飲む。
さっき、あんなにたくさん出したばかりじゃないか。
「確かあの時は…ちょうど偵察か何かに出ようとしてて、ああ可愛い子がいるなと思ってフラフラ付いて行ったら襲われてるから」
不埒な指が、イルカの陰茎に絡まってきた。
「もっ…だめって、あっ」
あまり力の入らない腕でそれを制したが、まったく効果がなかった。
柔らかく揉み込まれて、腰の奥から妖しい痺れが迫り上がってくる。
こんなつもりで尋ねた訳じゃなかったのに。
「死んでも構わないって顔してたから、ついオレもカッとなってあんな暴言を…。でも、赴任先で泣いちゃって、可愛かったなあ…」
イルカのそこが少し芯を持ち始めたのを見計らって、先端の窪みをぐりぐりと抉ってきた。
カカシの手管に体感と思考がぐちゃぐちゃに掻き回される。
「あっ…やっ、そこっ、やぁ!」
反射的に仰け反った咽喉元に、ねっとりと舌を這わされた。
感覚がおかしくなってしまったようで、それだけの事で体がびくびくと痙攣した。
最初は失敗が付き物だ、という言葉に何度も勇気付けられた事を、ただカカシに伝えたかっただけなのに。
「もう。イルカ先生サイコー」
余裕のない手付きで足を大きく広げられ、カカシの吐き出したものでまだぬかるんでいるそこに、再びカカシの熱が充てがわれた。
イルカが感謝の気持ちを伝えられるのは、まだもう少し先になりそうだった。






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2010.02.16