肉体関係






カカシとツーマンで任務に出る事なんて、きっともう二度とない。
だから、帰路の途中に雨宿りで入った古びた山小屋で、今しかない、と強烈に思った。
「あの、カカシさん」
「なに?」
ごく、と息を呑む自分の咽喉の音が、やけに耳についた。
カカシと出会って3年。
それは、イルカの片想いが始まってからの年月でもあった。
「…もうずっとカカシさんに惹かれていました。好きなんです。だからどうか…」
それ以上、自分の卑しさを口にする事はできなかった。
情けなく震える手をカカシの腰紐に伸ばす。
どうせ心を許してくれる事はないのだから、せめて体だけでも通じさせてはくれないだろうか。
抱くとか抱かれるとか、そんな事はどうでもいい。
一度でいいから、カカシの生命力の象徴を感じてみたい。
結び目を解こうとすると、遮るように手首を掴まれた。
不躾に急所を狙ったと思われたのか、呆気なく捻られ、板の間に馬乗りで押さえつけられる。
やっぱり無理か。
わかってはいたけれど、柄にもなくこんな大胆な事を浅はかにも実行に移してしまうほど、長いあいだ恋に煮詰まっていたのだ。
これでもう、終わりにできる。
嬉しいのか悲しいのか、薄っすらと浮いた涙が視界を遮ってくる。
「すみません…。忘れてくださ…」
「いいの?」
カカシの真剣な瞳に射竦められ、「何が」と聞き返す事もできなかった。
「…イルカ先生は、オレでいいわけ?」
どう答えるのが正解なのかわからないまま、目を伏せて小さく頷いた。
軽蔑の言葉を覚悟して、唇を噛みながらきつく引き結ぶ。
「後悔しても知らないよ。誘ったのはそっちなんだから」
突然、ザッ、とベストの前を開かれた。
中の服を一気に首元まで引き上げられ、平らな胸元が露わになる。
「っ…」
「やっぱり男だね」
「…す…、すみません…」
さら、と両胸を撫で下ろされた。
見た目だけでなく、感触も男である事を確かめたのだろう。
「謝る事じゃないでしょ」
そう言って胸の突起を指先で引っ掻いてくる。
ふざけて遊んでいるか、制裁か、どちらかなのだろう。
「っ…は、ぁ…んっ」
弱々しい声が出てしまって、慌てて袖を噛んだ。
せっかくカカシがその気になってくれたのに、男の吐息を聞いて我に返られてしまったら嫌だ。
必死に自分の腕に歯を立てる。
それなのにカカシは突起ばかりをつまんでは離し、捏ね回してくる。
じんじんして、むずむずして、内側にどんどん熱がこもっていく。
そこに突然、ぬる、と纏わりついてくるものがあった。
薄目を開けて見ると、真っ赤に尖った粒にカカシが舌を絡めていた。
時折、甘痒く歯まで立ててくる。
歯触りを楽しむように繰り返され、口を押さえても鼻や咽喉の奥から呻き声が漏れてしまう。
「ぅ…ん、ぁ…っは…、んぅ…っ」
「気持ちいい?」
「わかりませっ…、んんっ…」
「じゃあ、もっとちゃんと気持ちよくさせてあげないと」
「あっ…、そんな事っ、ぁ…ふ、ぁ…んっ、カカシさんはっ、しなくていいですっ…、か、らぁ…」
胸からカカシの口元を遠ざけたくて、力の入らない両腕を伸ばして額を押し返す。
離れそうになったと思ったら、カカシが尖らせた舌で突起の頂点をつついてきた。
妙に卑猥な光景に耐えられなくて、うろうろと目を逸らす。
「ひぁ…! あっ…! や、ぁ…!」
「こっちもちゃんと男だ」
完全に不意を突かれ、すでに腫れ起きていた中心を柔らかく握り込まれた。
イルカの先走りでぬるついたカカシの手が、生々しく表面を滑る。
という事は、下着の布越しではなく、じかに触られているのだ。
男の分泌液でカカシを汚してしまった事が、申し訳なくてたまらなかった。
「すみませっ…、ああっ…! やめっ、ひっ…ぃ、んっ!」
「さっきからイルカ先生、謝ってばっかりだね」
「すみませっ…、で、もっ、ひっああっ…!」
ぶるっ、と背筋が震え、太ももの内側が小刻みに痙攣した。
カカシに中心を触られながら、呆気なく達してしまった。
こんなつもりじゃなかったのに。
「っ、は…、すみませ…、すみま…」
「敏感なのは悪い事じゃないと思うけど」
ズボンと濡れた下着を、ひどく優しい手つきで丁寧に脱がされた。
すっかり脱力してしまって、されるがままになっている事がいたたまれない。
カカシをわずらわせたくなんてないのに。
「すみま…、っあ…!」
ぬるついた指が1本、いきなり後孔に差し込まれた。
浅い部分の内膜をねっとりと撫で回してくる。
「ぁ…、あ…、っあ…、あ、あっ…!」
けしてきれいとは言えない部分をカカシに触らせる事には、抵抗しかなかった。
こんな事になるのなら、たとえ叶わなくても、思いを伝える前に体の準備を整えておくべきだった。
声もさっきから全然抑えられないし、カカシにあらかじめ耳栓を用意するべきだった。
「そんなっ…、しな…でっ…、いいでっ…か、らぁ…!」
「イルカ先生のナカ、ひくひくしてて熱いね。早く挿れたい」
「だったらっ…、もうっ…、早く挿れっ…」
「ダーメ。ちゃんとほぐさないと。軟膏、足しますね」
潤いを帯びた指が、本数を増やしてなめらかに入ってきた。
欲深い後孔はそれに節操なく吸いつき、ぐちゅん、ぐちゅん、というひどい音が余計に大きくなる。
「ひっ…、や、ぁんっ…! は、ぁ…んっ」
イルカの腰が跳ねる部分ばかりを的確にくすぐられ、呼吸もままならなかった。
外に残っていた親指でさえ器用に動いて、孔に集まる襞の1つ1つを伸ばすように揉み込んでくる。
無理を言って行為に及んでいるのだから、カカシがここまで入念に拡げる必要なんてないのに。
快感と罪悪感で頭がおかしくなりそうだ。
気持ちよすぎる事も、醜態を晒し続ける事も、手間をかけさせている事も、全部がつらい。
「…そろそろ試してみよっか。先っぽだけでも」
カカシが素早く前を寛げ、はち切れんばかりに筋の浮いた雄芯を取り出した。
ずっと望んでいた生命の象徴のあまりの逞しさに、感動なのか恐怖なのかわからない涙で目が潤んでくる。
「っあ…、ん、んっ…」
そそり立つ軸を押さえたカカシが、ぬかるむ後口に先端をこすりつけてきた。
「あ、なんかいけそう」
「あ、あっ…、ぁ…ふっ、ん…ぁ…」
軽く圧をかけられただけで、後口がカカシの硬い熱を飲み込んでいく。
あっという間に、指でならされた所を通過してしまった。
おかしい。
てっきり、始まりのほんの一部しか挿入するつもりはないと思っていたのに。
だって、カカシはなんの被覆もしていなかった。
大事な部分を生身のままイルカに使ったりして、不快ではないのだろうか。
戸惑っているうちに、熱杭が信じられない深みにまで埋まっていく。
どこまで入るのだろう。
このまま体を突き抜けてしまったりはしないだろうか。
「全部、入った…。もうこのまま、いい…?」
勢いがついて引き下がれなくなってしまったか、一度引き抜いて被覆を着けてから再び挿入し直すのが面倒だったか。
どちらにしても、カカシさえ嫌でなければ、こちらはその判断に従うまでだ。
体内に初めて感じる存在感に声が出なかったので、こくこくと頷いた。
怖いし、少し苦しくもあるけれど、カカシとひとつになれるような感覚は、途轍もなく尊いものだった。
でも本当はカカシは、薄膜1枚でも隔てたかったのだ。
カカシのためにも、後戻りができなくなる前にイルカのほうから被覆について進言するべきだった。
「よかった。コッチも元気そうで」
「はっ、ぁあっ…! やっ、あっ、あっ…! ああっ!」
突然イルカ自身をするするとしごかれた。
先端のくぼみにまで爪を立てられて、腰が跳ね上がる。
同時に後孔が一斉にカカシの熱杭を食いしめた。
カカシから精を絞り取ろうとするみたいに、いつまでもみだりがましく蠕動する。
止めたくても、止まらない。
「っ、くっ…」
「ひ、ぁ…! すいませっ…、あっ…! あっ…!」
こんな浅ましい事はしたくないのに、熱欲は体の奥に溜まっていく一方で、むしろ自ら腰を揺らしてしまいそうになる。
「…もうちょっと馴染んでからにしようと思ったんだけど…もう、無理」
どうせ使い捨てるだけの体に、そんな気遣いはいらないのに。
カカシが優しすぎて、また涙が浮かんできた。
「あっん…! は、ぁ…んっ! あっあっ! あっ!」
カカシの腰がゆっくりと前後に動き始めた。
熱杭の張り出た部分がいちいち、ごり、ごり、と重たく内壁に引っかかる。
そのたびに淫らな痺れがつま先から頭のてっぺんを突き抜けて、体の中も外もすべてが震える。
「あー、ダメだ。やっぱり我慢できない。ごめん、がんがん突きたい」
「ひぁ…! ひっ…! あっ、ぅあっ…! あっ! あっ! あぁっ…!」
今までとは比べものにならない力と速さで後孔を突き荒らされた。
引き攣るような痛みが少しあったけれど、それは最初のうちだけだった。
すぐに淫膜がとろけ、カカシの雄芯と絡み合う。
体を繋げるという事は、こんなに激しくて、濃厚で、気持ちのいいものだったのか。
カカシとこんなに近くで、こんなに強固に触れ合える幸せに、涙が止まらなくなった。
「やばっ、もう出るっ…」
「んぁ…! ああっ…! カカシさっ…、すいませっ… お、れっ…、も、ぉ…!」
終点の兆しを見せ始めたカカシ自身が、イルカの中でびくびくと跳ね回った。
それすらも快感に変換され、イルカの前も後ろも悶え乱れて悦楽に満ちていく。
「っ、く…ぅ、ごめんっ、中でっ」
カカシが謝る事は何もない。
これだけ特別なものを与えてくれたのだから、好きなように扱ってくれて構わないのだ。
「あっ! ひっ、ぁ…! あっ…! ぁあんっああっ…!」
「っ…! っ…! ぅ…は、ぁ…」
どくん、どくん、と震動しながら、最奥に灼熱の迸りを撃ち放たれた。
後孔に収まりきらなかった熱液が、結合部の縁からとろりと溢れ出す。
すみません、ごめんなさい、ありがとうございました、と伝えたいのに、まったく声にならない。
ふわっと倒れ込んできたカカシが、首筋に顔をうずめてきた。
「…今日だけで終わりじゃ…ない、よね?」
カカシのこのひと言で、今の不毛な関係は始まった。






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2016.08.20