あれ以来、任務に出る前にカカシが帰還予定日を伝えてくれるようになった。 準備しておいて、という意味なのだろう。 その日になると仕事は早めに終わらせて、家で体を清めてから自分で後ろをほぐしている。 少しでもカカシの負担と不快感を減らすために。 風呂から出て、もう古くて調節が利かず冷えすぎる冷房を入れていると、玄関の呼び鈴が鳴った。 急いでドアを開ければ、二週間分の荷物を背負ったカカシが、気の抜けた顔で微笑みながら立っていた。 こうしてカカシは毎回、帰里の足で律儀にイルカの家に寄ってくれる。 今日もそれが照れくさくて、思わず頬を掻いてしまう。 「…お疲れさまです」 「お疲れさま。入っていい?」 「はい」 部屋に上がってもらった途端、カカシが後ろから、そっと抱きついてきた。 うなじに鼻先を当てられて、足を止める。 「…あ、ごめん。オレもシャワー借りていい?」 「そんな、もちろんです」 このまま始まっても構わないのだけど、任務後のカカシはいつも行為の前に風呂に入る。 疲れている体をすぐに動かしたくはないだろうし、早くさっぱりして、ゆっくりしたいのだろう。 だったらどこかで休んでから来ればいいのに、とは思っても、現状を手放したくなくて、ずっと提案できないでいる。 壊れかけの空調でだいぶ部屋が冷えてきたので、間続きの寝室へ移った。 枕元に潤滑剤と被覆を用意して、一糸まとわぬ姿でベッドに入る。 うつ伏せになって膝を折り、潤滑剤を絡めた指で改めて後ろをならしていく。 カカシがいつでも好きな時に使えるように。 「…っ、…っ、あ…、ぁ…んっ」 自分でしている時でさえ、いつもこうして声を押さえられなかった。 だから耳栓をしてほしいのに、カカシには頑なに拒まれ続けている。 今は別の方法を探しているけれど、効果的な方法はまだ見つかっていない。 被覆のほうは、基本的にカカシは着けたがらない人だった。 週に何度も関係を持てるような時は着ける事もあるけれど、長い任務のあとは特に、抜き身で繋がる事が多い。 他の相手にもそうなのか、男の自分が相手なら妊娠の心配がないからなのか。 イルカだけに挿入するものではないのだから、本当にカカシのためを思うなら、着けてもらったほうがいい事はわかっている。 でも、直接触れ合える誘惑に負けて、毎回カカシに判断を委ねてしまっていた。 「ふっ…ん、あ…、はっ、ぁ…」 「まーたひとりで始めてるの? 我慢できなかった? エッチな人だねぇ」 腰にタオルを巻いただけのカカシが寝室に入ってきた。 シーツの中で腰を上げてもぞもぞしていれば、何も言い訳はできない。 汚れた手をそそくさと拭っていると、カカシにシーツをめくられた。 柔らかく濡れた後口に視線を感じて、ひくひくと腰が揺れてしまう。 「…いつも自制心を試されてる気がする」 「そんなっ、ことっ…」 カカシが後ろから覆い被さってきた。 ぴたっ、と密着できるのは一瞬でも、背中で感じるカカシの体温と心拍には毎回必ず安堵を覚える。 「ひぃ、ああっ…!」 すっかり高まっていたのに一度も触れていなかった乳首を、いきなり左右いっぺんに揉み摘ままれた。 慌てて口を押さえ、脱いだ服を猿轡の代わりに噛みしめる。 「…声、我慢しなくていいのに」 優しいカカシは、苦し気なイルカを気遣って、いつもそう言ってくれる。 でも、鵜呑みにするわけにはいかない。 男の呻き声なんて、性欲を減退させる原因にしかならないから。 「今日も後ろからがいい?」 途切れる事のない胸への愛撫に震えながら、小刻みに頷いた。 正常位で関係を持ったのは、初めての時の一度だけだった。 気持ちよすぎて我を忘れてしまうし、欲に溺れた顔を見られてしまうし、イルカの精液でカカシを汚してしまうから。 そして何より、カカシの恋人でもない自分が、達する時にべったりとしがみついてしまう事が申し訳なくて。 「ほんとイルカ先生はバックが好きなんだから」 「あっ…、っ…、ぅ…んっ」 風呂で育ててきてくれたのか、すでに硬度を増していたカカシの熱軸で柔襞を撫で上げられた。 挿入するわけでもなく、淫孔をカカシの先端でぐにぐにと揉み込んでくる。 「ココ、いつもほぐしてあげたいのに、イルカ先生がエッチだからなかなかできないんだよね」 「ぅ…あ、っん…、っ…、ぅ…んっ」 「こんなエッチな体をこれから抱けるんだと思うと、オレのムスコもすぐ元気になっちゃって」 「んっ…! ふっ、あ…!」 「っ、ぅ…、もってかれる…」 カカシが抜き身のままもぐり込んできた。 ほんの少し押されただけで、淫孔が歓喜して迎え入れるのがわかった。 ぐっ、ぐっ、ぐっ、と3歩ほどでカカシの剛健がすべて収まってしまう。 「っ…、こんなにすんなりっ、入っちゃうんだもん、ね。やらしいお尻」 「やっ…ぁ、んんっ…! ん、んっ!」 そのまま奥で腰を回され、最深部ばかりを続けてえぐられた。 こうするとイルカの淫膜が一斉に波打ち、熱軸を離すまいと吸いついていく事を熟知しているのだ。 「ああ…。イイ、ね…。っ、きもち、い…」 「んっ…! んっ! んっ…! ぅ…んっ!」 「イルカ先生も…っ、気持ち、いい…?」 「いっ、…いいっで、すっ…ん、んっ! んんっ…!」 「よかった。素直なイイ子はもっとかわいがってあげたくな、るっ…」 無防備に先走りを滲ませていたイルカ自身を、カカシの利き手ですっぽりと包まれた。 しゅ、しゅ、しゅ、と上下にしごかれる。 「あっ、待ってくださっ…、すぐ出ちゃっ…、んっ…! っ…!」 こう言えばいつもなら手を緩めてくれるのに、今日は一向にその気配がなかった。 むしろ余計に強く握られて、速度まで上がっていく。 「ひ、んっ…! やっ、ぁ…んんっ! だっ、めぇ…! 待っ…! カカシさっ…、んんっ!」 「…色っぽい声、今日もちゃんと聞かせてくれないのっ? 抑えるの…っ、大変っ、でしょっ…?」 「だい…じょう、ぶっ…、ですからっ…ぁ、んっ! 待っ…! お願っ…! っんん…!」 イルカ自身への刺激を継続しながら、カカシが腰をゆったりと前後に動かし始めた。 ずるーっ、と退いては、ぬうーっ、と戻ってくる。 淫膜が欲望のままに、はしたなく熱軸にむしゃぶり付いてしまう。 絶頂寸前の快感ともどかしさに、ただ震える事しかできない。 「本当は、もっと焦らしてっ、焦らしまくって…っ、おねだりしてほしいんだけど、いつも俺の我慢がきかないんだよね…っ」 「んっ…ぁ! んんっ…! あっ…ふ、ぅ…んんっ…!」 カカシがそれまでの遅戯を翻し、急遽猛然と責め立ててきた。 後孔を熱軸で激しくこすられ、淫膜が狂ったように弛緩と収縮を繰り返す。 圧倒的な奔流に、気持ちも体も付いていかない。 がく、と崩れかけた腰をがっちりと掴まれた。 淫孔のすべてを余す所なく味わい尽くされる。 頂点に駆け上がるのは、あっという間だった。 すんでの所で顎が緩んでいた事に気づき、咥えていた服を渾身の力で噛みしめ直す。 「っんんっ…! んっ! んっ! んっ…! んっ、ふぅんんっ…!」 「っ…! ぅ、くっ…ぅ!」 「ふ、ぅんっ…! んんっ…!」 先に達したイルカに流されるようにしてカカシの雄が弾けた。 熱い聖液が、びゅく、びゅく、びゅ、と続けて注がれ、体にも心にも染み渡っていく。 いよいよ体勢が保てなくなって腰が落ちてしまった。 そのまま結合がほどけ、カカシが隣に倒れ込んでくる。 当然のように唇が近づいてきたので、慌てて顔を背けた。 カカシのために、唇だけはまだ一度も重ねた事がなかった。 経験豊富な人だから、行為のあとの習慣や義務感で体が動いているだけだとわかっているから。 それを利用するのは申し訳ないし、カカシを穢してしまう気がするのだ。 過去、現在、未来、すべてのカカシの恋人に対しても失礼だろう。 また込み上げてきた罪悪感に唇を噛むと、カカシのほうから、ふふっ、という笑み交じりの吐息が聞こえてきた。 そっと頭を撫でられ、髪を梳かれる。 何度も何度も飽きずに続けられる柔らかな手つきに、胸の中があたたかいものでいっぱいになってくる。 こういう時間が一番好きかもしれない。 「本当にイルカ先生は照れ屋さんなんだから」 なだめるような穏やかな声のほうへ、おそるおそる顔を向けた。 カカシは慈しむような目でイルカを眺めていた。 もしかして愛されているのではないかと勘違いしてしまいそうだった。 「カカシさんは俺のこと…」 どう思っているんですか、と浮かされたように言いかけていて口を噤んだ。 そんな事を聞いたって意味がない。 カカシは優しいから、イルカが望むような答えを、本心でもないのに与えてくれるに決まっている。 「ん? なに?」 「な、なんでもないです…。あの、風呂に行ってきていいですか…」 どーぞー、と間延びした声が返ってくる。 夜の行為の場合、カカシはいつも翌朝にシャワーを浴びるけれど、先に使いたい気分の時もあるかもしれないので、念のために毎回確認していた。 ベッドを下りて立ち上がる。 すぐに太ももの内側にしたたる感触があって、あたふたと服で押さえる。 「あー、もったいない。今のすっごいエロかったのに」 「ふ、風呂っ、行ってきますっ…」 寝室から逃げるように出ていこうとすると、カカシに呼び止められた。 気まずくて背中を向けたまま、はい…、と返事をする。 「イルカ先生はさ、結婚とかってどう考えてるの?」 唐突な問いに目を見開いた。 どうしてそんな事を聞くのだろう。 カカシが好きなのに、他の女性を娶る事なんてできるわけがないじゃないか。 「…もう、諦めています」 そっか、という軽い声が返ってきた。 カカシに同じ質問をしたい、という欲求がすさまじい勢いで込み上げてくる。 駄目だ駄目だ、やめろやめろ、と頭の中では何度も警告が出ていた。 それなのに、抑えきれなかった。 「…カカシさんは…、しないん…ですか…」 カカシが結婚をしたら、さすがにこんな関係は続けていられない。 いくらなんでも、そこまで倫理に背く事はできない。 1分でも1秒でも長くカカシと一緒にいたいと思っているのに、終りの話をわざわざ自分から切り出してどうするのだ。 言ってしまった後悔で顔がゆがむ。 「しないね。たぶん一生。賭けてもいい」 自信たっぷりの声に、俯いていた顔が、ぱっと上がった。 急に目の前が明るくなる。 今はたまたまカカシに結婚願望がないだけかもしれない。 そのうちに湧いてくるのかもしれない。 でも。 こんなに力強い言葉をもらえたのだから、もうこれ以上望む事は何もないと思った。 |