火照ってしまった唇を噛み、薄っすらと涙の浮いた目尻を払う。
こんな事を悲しんでいられるなんて、幸せな事なのかもしれない。
そう思おうとしたのに、しく、と胸が震えて、もう一度目尻を払った。
「そんな切ない顔しないで…。もっと欲しがっていいんだよ。体みたいに正直になって」
耳当たりのいい優しい声が、痛い部分を柔らかく包み込んでくれる。
でも、カカシの負担になるのは嫌なのだ。
与えられてばかりで何も返せないのが嫌なのだ。
「ヤリたいのはあなただけじゃないんだからね…?」
その言葉に、はっとした。
ぐり、とカカシに股間を押しつけられる。
ものすごく熱くて、硬くて、すでに充分なほどに膨らんでいる。
「イルカ先生は謙虚すぎるんだよ」
そんなつもりはないけれど、そういえば綱手にも自己評価が低いと言われたばかりだ。
「っ…は、ぁ…」
カカシの手が後ろから下着の中に入ってきた。
まだほぐれていない窄まりを、くるくると揉み込んでくる。
「もっと自分の色気を正当に自覚して。いや、人としても、男としても、恋人としても、超優秀だって自覚を持って」
もしかして、認識が間違っていたのはイルカのほうだったのだろうか。
キスを拒んでいた事も、本当はカカシの言う通りだったのだろうか。
照れているだけだったのに、言い訳をこじつけて逃げていたのだろうか。
改めて考えてみると、そうでしかないように思えてくる。
「っあ…!」
カカシの指が後孔にするりと入ってきた。
いつの間にまとわせていたのか、ぬめりを帯びている。
深く、繊細に探られるもどかしさに、すぐに膝が震え出す。
自分でほぐすのとは全然違った。
「カカシさっ…、ぁ、んっ…、俺っ自分でっ…」
「たまにはさせてくれてもいいでしょ。突っ込むしか能のない男だと思われたくないのよ」
「そんな事っ…」
淫らな部分をカカシに暴かれるのが恥ずかしい。
きっと自分でするよりも早く、容易く、熱く、とろけてしまう。
実際に、もう内壁がうねり始めている。
心許なくて、足元も覚束なくて、カカシの首に縋りついた。
いつもの後背位ではできない体勢だ。
カカシの体温が近くて、とても安心する。
「…イイ、ね。バックもいいけどさ、たまには正面からしようよ。なんなら毎回でもいいけど」
こくこくと何度も頷いた。
本当はイルカもカカシと向き合って繋がりたかった。
「…そっか。バックでしてたのも、恥ずかしかったからなんだね。もっと早く言えばよかった」
「あ…」
急に指を引き抜かれ、最後に残っていた膝の力が抜けてしまった。
崩れるイルカを支えながら、カカシも一緒に倒れ込んできて、教卓の陰に組み敷かれる。
慣れた手つきで下を脱がされ、露わになった自身は先走りでべたべたに濡れていた。
カカシの頭が、なんの躊躇いもなくそこへ下りてくる。
「…っん、ああっ!」
じゅる、と吸い込まれ、上部の膨らみに舌の平が絡みついてきた。
だがもう次の瞬間には尖った舌に先端のくぼみをほじられる。
「ひっ、あぁっ! ひぁ…! あ…っ、んっ…! っ、ぅんんっ!」
大きな声を上げている事に気づいて、重ねた両手で咄嗟に口を押さえた。
「イルカ先生のエロい声、興奮するからもっと聞かせて?」
カカシが手の甲に口づけてきて、口元から1枚ずつ丁寧に剥がしていく。
なんだか心まで裸にされていく気がした。
このままではカカシを好きな気持ちが溢れて、隠せなくなってしまう。
いとしい人から、いつまでも目が離せなくなる。
「…そんな熱っぽく見つめられたら、もうたまんない。あの任務の時、綱手様に直談判して、ほんとよかった」
「直談判…? あの任務…?」
「イルカ先生と付き合う事になった日の任務だよ。初めてエッチした時の」
鼻の下を伸ばして赤裸々に語るカカシに、かぁーと顔が熱くなった。
あの時の任務は、カカシが隣国まで要人を送り届けるもので、イルカのほうはアカデミーの夏休みを利用しての教員研修だった。
カカシの中ではそんな頃から付き合っている事になっていたのか。
勝手に曲解していた事が、今さらだけど本当に恥ずかしくて、カカシに申し訳ない。
「目的地も任務期間も一緒なんだから、往路はイルカ先生も護衛員として同行してもらって、帰路は2人で移動したほうがお得でしょ、って」
たしかに、往路では依頼内容以上の手厚い護衛だと思わせる事ができるし、復路では単独移動よりも安全で、経費も安上がりで済む。
「ずっと好きだったのに、好きがこじれて攻めあぐねてる時だったんだよね。なんか…あの時の積極的なイルカ先生を思い出したら、オレちょっともう…」
カカシが颯爽とベストを脱ぎ、それを丸めてイルカの腰の下に挟んできた。
手早く前を寛げ、いきり立った雄茎を取り出している。
「ほんと舞い上がっちゃって、オレの恋心を嗅ぎつけたくのいちの美人局なんじゃないかって、最初は疑ったりして、さ…っ」
あのとき何度もこちらの性別を確認していたのは、そういう理由からだったのか。
わずかでも向いた興を新鮮さとして楽しもうと、努力してくれているからだと思っていた。
「ぁ…、は、っ…んっ」
膨れてぬるつくカカシの熱を、イルカの生白い太ももの内側にこすり付けられた。
ぞくぞくしたものが背筋を走る。
でも、じれったい。
もっとしっかりとカカシを感じたい。
「っん…、カカシさ…、も…早く…、は…ぁん、くださ…っ」
自ら脚を大きく開き、すでにとろけている後口の縁を押さえて左右に広げた。
くちゅん、と淫孔から期待の声が上がる。
ひどくふしだらな事をしている自覚はあったけれど、我慢できなかった。
「イルカ先生っ…」
「っあ…! ああっ…!」
欲していた塊が一気に奥まで入ってきた。
同じ勢いで引き抜かれ、再び最奥まで穿たれる。
それが止め処なく繰り返される。
「ぅあ、あっ、あっ! あっ! ああっ! ひあぁぁっ!」
「照れ屋なのに大胆って、小悪魔すぎるでしょっ」
「カカシさっ…! ああっん…! ぁんっ! ひっ、んっ…! ああぁぁっん!」
あまりの激しさに、早々に白濁を噴出させてしまった。
その後もだらだらと尾を引いて淫汁が溢れ続ける。
イルカが達した事に気づいていないはずはないのに、カカシの勢いは一向に緩まない。
極まったままの体には、甘い猛毒を注がれ続けているようなものだった。
全身の至る所が、ひく、ひく、と小刻みに震え、不規則な周期で時折、びくん、と大きく跳ねる。
貪欲な後孔はそれでもイルカの意思に反して抽挿を歓迎し、熱軸に身も世もなく食らいついていた。
終わりのない絶頂に目が霞んでくる。
快感で頭が破裂しそうだった。
「やっ、あぁっ…! 待っ…、カカシさっ…、ひっあ! だ、めぇ…! ひ、んっ! ああぁぁっ!」
「イルカせんせっ、イル、カっ、せんっ、せっ…! イルっ、カ…っ!」
ぎゅう、と抱き寄せられ、一番深い所でカカシの情液を放たれた。
雄根の重たい脈動が体の内側から響き渡り、ぞくぞくする痺れが脳天を突き抜けていく。
経験した事のない充足感だった。
意識が朦朧としていて、体もふわふわする。
「…ごめん、だいぶ急いじゃった」
カカシが、ふう、と大きく息をついた。
そのひと呼吸だけで心肺の乱れを整えたようだった。
「イルカ先生の職場だから早く終わらせないといけないと思って」
そう言うとカカシは、まだ震えているイルカの膝を押し開きながら、後孔が上を向くような体勢で圧しかかってきた。
尚も軽く芯の残るカカシの陰茎を、ぐりぐりと何度も深みへこすりつけてくる。
奥からぬちゅぬちゅと音がして、内膜がカカシの精液を取り込もうとしているみたいだった。
「ぁ…っ、ふ…んっ」
「そろそろじゃない?」
「そろ…そろ…?」
「子ども。これだけしょっちゅうナカに出してたら、できてもおかしくないよね。そしたらちゃんと責任取るのに」
言いながらもカカシは腰を揺らし続けている。
まさか、カカシは今、子どもを作ろうとしてこんな動きをしているのか。
察してしまった途端、火が点いたみたいに顔が熱くなった。
被覆を着けたがらなかったのは、妊娠しないから、という理由ではなかったのだ。
むしろその逆で。
「っ、あ…、そんなっ、おれっ…男ですっ、から、ぁ…っ」
「うん。だから今の制度じゃ結婚もできないでしょ。できるものなら今すぐにでもしたいのに」
結婚しない、というのはそういう意味だったのか。
結婚願望がなかったわけでもなくて、そちらもむしろ逆の事で。
「オレより幹部連中をよく知ってるイルカ先生が、結婚は諦めてるって言うぐらいだもん。賭けるなら、これからも制度改正はしない、ってほうだよね。…まったくもう。イルカ先生はオレのだって周りに知らしめるには、結婚以外でどうしたらいいっていうのよ…っ」
「ぅ…、んっ、あ…っ」
結婚を諦めていると言った事に関して、カカシとの新たな食い違いには気づいたけれど、それを正す余裕はなかった。
深い所に延々と腰を押しつけられているうちに、またじわじわと昂ってきてしまったから。
たぶん情欲がぶり返してきただけなのに、カカシの動きの意図がわかったせいか、本当に孕んでしまったらどうしよう、と微かに心配し始めている自分がいた。






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2016.12.26