ずるっ、と異物が抜けていき、弛緩した後孔が緩くそれに絡みついた。
「ごめんね。今、急いで掻き出すから」
そうカカシに言われ、仰向けだった体を反転させられる。
四つん這いにされ、宣言通り、イルカの後孔にカカシの指が入り込んできた。
だが、もうイルカにはそれを制する力は残っておらず、カカシの成すがままになっていた。
「ぁ…、あ、あっ…」
「けっこう多いな…。ナカで2回も出しちゃったからな…」
カカシの呟きに耳を塞ぎたくなった。
でも、そんな事をした所で、校内で生徒と肉体関係を持ってしまった事実は変わらないのだと思って断念した。
あまりの情けなさに涙が出てくる。
生徒とこんな事をするために教育実習に来ている訳ではないのに。
涙はシャワーに紛れ、鼻を啜る音もシャワーに掻き消される。
それでも時折、泣き声だか喘ぎ声だがわからないような弱々しい声が上がってしまった。
カカシはイルカの声に気を取られる事もなく、黙々と作業を続けている。
高校3年生で、ここまで性行為の後始末に手慣れているなんて、カカシは今までに一体どういう経験を積んできたというのだ。
イルカが踏み込んではいけない領域かもしれないが、カカシの私生活が心配になってくる。
「たぶん、もう大丈夫だと思うんだけど…」
カカシがそう言ってから、もう一度確認するように指が奥まで入って来た。
「っ…、こんな事っ…どこで習っ…、っあ、あ」
それをすぐに引き抜かれて、体が震えた。
本で読んだだけですよ、と静かに答えたカカシが、さっと立ち上がった。
「イルカ先生、立てる?」
シャワーを止めながら、カカシが気遣わしげに尋ねてきた。
閉門の時間もあるし、イルカも早く立ち上がろうとして足に力を入れる。
しかし、自分の体なのに全く手応えがなくて、結局、起こせたのは上半身だけだった。
仕方なく、手を伸ばして正面の手すりを掴み、腕の力と勢いで足腰を立ち上がらせる。
すると、とても恥ずかしいのだけれど、生まれたての仔鹿のように膝ががくがくと震えてしまった。
「無理しないで」
その言葉とほぼ同時に、体をふわりと掬い上げられた。
カカシに横抱きにされるのは恥ずかしかったが、仔鹿よりはましだと思って、真っ赤になりながらも、更衣室までは大人しくカカシの腕に収まっていた。
長椅子に下ろされて、バスタオルを手渡される。
ジャージの上下をイルカの手の届く所に置くと、カカシは一旦更衣室を出て行って、大して時間も掛からずに戻って来た。
手には、イルカの着衣やカカシの水着などを持っている。
シャワー室から運んで来てくれたようだ。
「今日は家まで送らせて下さいね」
そう前置きをしてから、カカシが携帯電話でどこかに電話を掛けた。
迎えを呼んでいるような短い会話をして、さっとそれを切って、カカシが着替えを始める。
その時、ふと気が付いた。
こうやって落ち着いている時にこそ、真剣に進路の話をするチャンスではないだろうか。
慌ててジャージの下だけは身に着け、早口にならないように気を付けながら口を開いた。
「…大学生活を楽しみたいなら、一楽でなくても出来ると思うんです」
あんな事をした後でも普通に話し掛ける事が出来て、内心ほっとしていた。
「だーかーらー。イルカ先生には一楽じゃないと会えないでしょ。山中先生みたいなこと言わないでよ」
ちらっ、とイルカに視線を投げ、着替えを続けながらカカシが言った。
「その事なんですけど…。はたけ君が入学して来る頃には、僕は一楽を卒業しているので…」
「えっ…!そうなのっ?」
ズボンのファスナーを上げる手を止めて、カカシが唖然とした顔をして驚いたような声を出した。
「はい。だから、はたけ君が本当に進みたいと思う進路を選んでほしいんです」
カカシにはイルカの言葉がかなり響いたようで、それからは極端に口数が減ってしまった。

* * * * *

カカシの知り合いなのだという、夕日タクシーという個人タクシーに乗って、自宅まで送り届けてもらった。
イルカと共にそこで降りたカカシに向かって、運転手は豪快に笑いながら、支払いは出世払いだと言って営業に戻って行った。
あれから、カカシはずっと浮かない顔をしていた。
それでもイルカの荷物を玄関まで運んでくれて、すぐに踵を返したカカシの背中に、ジャージは洗って週明けに返すから、とだけ伝えた。
カカシが本気でイルカとの大学生活を楽しみたいと思っていたのかどうかは定かではない。
だけど、それが叶わないとわかってから、改めてカカシが自分の進路を真剣に考えてくれたらいい。
それが進路変更の第一歩になる。
在学中のイルカが言うのは少し虚しいが、あんなに素晴らしい才能を持っているカカシが一楽大学に行くのは勿体ないと思う。
火影大学ではなくてもいいから、ちゃんと目標を持って、それを実現できる大学に入ってほしい。
そうやって、その日は濡れたスーツをクリーニングに出しに行っただけで、あとはベッドの上でずっとカカシの事を考えていた。
翌日も、洗濯や食事などの必要最低限の行動以外、ほとんどベッドの上で過ごした。
腰から下のだるさが消えなくて、活発に動く気にはなれなかったのだ。
そうすると、必然的にカカシの事ばかりを考えてしまう。
カカシの進路の事だけでなく、私生活の事や、交遊関係の事まで。
それほどカカシとの交わりは強烈なものだったから。
こんなにも誰か一人の事で思考を占領されるのが初めてで、自分でも収拾がつかなくなっている。
それがどのくらい続いたのか、ふとイルカが気付いた時には部屋が薄暗くなり始めていた。
そろそろ洗濯物を取り込まないと、とイルカが思っていると、不意に玄関からドアをノックする音が聞こえてきた。
洗濯物は後回しにして、のそのそと起き上がって玄関へ行き、ドアの鍵を開けた。
すると、イルカがドアを開ける前に、外側から引っ張られて勢いよくドアが開いた。
「イルカ先生」
そこには、普段着姿のカカシが立っていた。
ドアを開けた勢いを保ったまま、カカシが部屋に押し入ってくる。
「オレ、決めたから」
カカシがそう言いながら、後ろ手にドアを閉めた。
昨日の帰り際とは、表情が一変している。
カカシは、イルカから目を逸らさずに靴を脱ぎ、勝手にぐいぐいと部屋に上がってきた。
後ずさるしかなかったイルカの背中が壁に突き当たり、そこでようやくカカシの侵攻が止まる。
両肩にカカシの手が掛かり、そこをぐっと掴まれた。
「大学で法律と政治の勉強する。政治家になって法律変えて、いつかイルカ先生と結婚したいんだ」
「えっ…」
「だから、配偶者になるまでは恋人で我慢して」
カカシの顔は真剣そのもので、冗談や悪戯で言っているようには見えなかった。
結婚とか、配偶者とか、恋人とか。
カカシの言い出した事が奇抜すぎて、返す言葉が見当たらなかった。
大学で法律や政治を勉強するのも、法律を変えるために政治家になりたいというのも、立派な志だと思う。
だけど、それを決めた理由に、だいぶ問題はないだろうか。
「付き合ってる人がいるなら、そいつとは今すぐ別れて。絶対に後悔はさせないから」
そんな人はいないけど、熱意の籠ったカカシの力強い言葉に、反射的に頷いてしまいそうになった。
一応は教師という立場から、カカシに助言をしなければならないのに。
「…どうして…そんな…」
しかし、イルカの口から零れたのは、そんな拙い呟きだけだった。
唇を引き結んだカカシの瞳が一瞬、切なげに揺れたように見えた。
「だって…!イルカ先生が好きなんだもん!一生離したくない!」
がばっ、とカカシに抱き竦められた。
もしかして。
いや、もしかしなくてもこれは、愛の告白というか、プロポーズの言葉なのではないだろうか。
さっきから結婚だとか恋人だとか言われていたのに、今更それに気が付いた。
あまりにもイルカの日常から掛け離れた出来事に、頭がぼうっとなってくる。
「こんなにオレを惚れさせた責任、ちゃんと取ってよ…」
頭がぼんやりしているのと、カカシに抱き締められているのとで、一人で立っているのがつらくなってきて、体を支えるために、そっとカカシの背中に腕を回した。
それは致し方なくやった事だったのに、今までに感じた事のない充足感がイルカの胸に込み上げてきて、増々どうしたらいいのかわからなくなった。
でもまだ、イルカの理性は、カカシは生徒なのだと訴えてくる。
「…はたけ君は…僕の生徒だから…」
その言葉は、カカシに聞かせるためだったのか、自分に言い聞かせるためだったのか、言っている自分でさえ判別が付かなかった。
「じゃあ…!イルカ先生の教育実習が終わったらオッケーって事?そしたらもうオレ、イルカ先生の生徒じゃないよね?」
腕の拘束を緩めたカカシが、目を輝かせながら真っ直ぐにイルカを見据えて言ってきた。
確かに教育実習が終わればイルカはただの大学生に戻るけれど、カカシの主張に何か引っ掛かるものを感じて首を捻る。
すると、それをどう捉えたのか、イルカとは反対側に首を傾げたカカシの顔が近付いてきて、そのまま唇が重なった。
その柔らかい感触が心地良くて目を閉じると、面倒な考え事はどこかに吹き飛んでしまった。
もうカカシが生徒だという言い訳は利かないし、キスだけでこんな状態になっているのだから、イルカも腹を括らなければならない。
ふわっと唇が離れたのでカカシを見ると、頬が薄っすらと紅潮していた。
「すっげぇやる気出てきた!20代で内閣入りして、30代で総理大臣になってやる!」
とてもじゃないけど、人から注目されるのを嫌がって学校の成績を調整していたカカシの言葉とは思えなかった。
だけど、突如として良い方向へ変貌した高校生の姿は、これから教師の道に踏み出そうとしているイルカに勇気を与えてくれるものだった。






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2010.11.01

 

 

 

363636Hit E子さんからのリクエスト
『カカシさんとイルカ先生の歳の差逆転+大人向け』 でした。
最終話をアップした日が、屋外プールのシャワー室で水着姿でいたら寒い時期になってしまってすみません…。
ですが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

リクエストありがとうございました!