何となく周りの視線が痛くて、昼休みは一人で外へ行った。 弁当を持って木の下に座る。 午前の授業は室内で薬草についての講義を行ない、滞りなく終わった。 天気は良くて、空は晴れ渡っている。 しかし、気分があまり良くない。 さっき授業が終わって教員室に戻ったら、綺麗に包装された箱が一つ増えていた。 やはり『イルカ先生へ』という紙も付いていた。 三つとも筆跡が違うので、別々の人からだろうとは思うのだが。 こんな事、初めてだった。 進まない食事を無理に詰め込んで、午後の授業に頭を切り替える。 午後は外で薬草を見極める訓練をする。 天気が良いから、きっと気持ち良いだろう。 そう思ったら少し気持ちが楽になったので、その勢いで弁当箱を片付けに教員室へ戻った。 すると、また一つ見知らぬ箱が増えていた。 げんなりして四つ目の箱を重ね、机の引き出しから薬草図鑑を取り出す。 室内の先生達をあまり見ないようにして、部屋を出た。 午後の授業も終わり、生徒達と別れて校舎に戻ると、玄関でナルトに呼び止められた。 少し大きめの箱を持っている。 「イルカ先生が欲しいって言ってたもの、持って来たってばよ」 直情型のナルトは、昔から、言われた事を真っ直ぐに捉える傾向があった。 術を習得したりするには素直なのが一番だと思うが、日常生活では適当でない事もある。 「オレ、鍋ってよくわかんないから、店で一番でっかいやつを選んだんだ」 「そっか。ありがとう」 心配そうにこちらを伺うナルトが可愛かった。 安心させるように、努めて優しく微笑んだ。 「イルカ先生、オレ、ずっと、イルカ先生が大好きだから」 「うん、ありがとう。大切に使うよ」 「じゃ、オレ、修行してくるってばよ!」 「気をつけてな!」 大きく手を振りながら、ナルトが走っていった。 受け取った箱は大人が持っても重量を感じるものだった。 「土鍋だろうなぁ」 この鍋を囲んでカカシやナルトと一緒に食事をしたら、きっと楽しい。 朝から沈みがちだった気分が、ナルトのおかげで一気に回復した。 イルカの顔に笑みが戻った。 今日は受付業務が入っておらず、授業が終われば帰宅出来る事になっていた。 たくさんのプレゼントを抱えて家に帰るのは憂鬱だったが、ナルトから貰った鍋を思い出すと元気が湧いてきた。 「イルカ先生、さっきカカシさんが来て、今日は先に帰ってと伝えてくれと言われました」 「カカシ先生が?そうですか。わざわざありがとうございました」 珍しい事だったが、時々そういう事があったので別に気にしないで、一人で帰路についた。 家の前に見知った少年が立っていた。 手には平らな箱と直方体な箱の二つを持っている。 「おーい、サスケ!どうした?」 小走りで近寄る。 荷物が多いので速く走れない。 「イルカ先生、手伝おうか?」 「ん?ああ、これか?大丈夫だよ。でも、ちょっと鍵だけ開けてもらっていいか」 ズボンのポケットをやや突き出して、サスケにドアの鍵を取って開けるように促した。 躊躇いがちにズボンに手が入ってきて、確かに鍵を掴んだ。 「うん、それ」 ドアを開けてもらい、ついでにサスケに中に入るように奨めた。 荷物をテーブルの上に置き、手を洗いに台所へ行く。 「今お茶入れるから、待ってろよ−」 「これ、アカデミーで貰ったの?」 「そうだよ」 サスケが片膝を立てて畳に座った。 きうすと湯のみを盆に載せて持っていく。 「イルカ先生、これ、持ってきたから」 「俺に?いいのか?何か、元生徒に物を貰うのって不思議な感じだなぁ」 「イヤ?」 不安を露わにするサスケに笑顔を返す。 「違う、違う。ちょっと複雑なだけ。でも、ありがとう。開けていいか?」 「うん…」 シンプルに包装してある箱を丁寧に開けていった。 すると、中にはアイロンが入っていた。 という事は、もう一つの平らな箱はアイロン台だろうか。 わくわくしながら紙を剥がしたら、やはりアイロン台が出てきた。 「いいのか?申し訳ないなぁ、ナルトにもお前にも。たかがケーキに」 改めて聞き直してしまうほど、あげた物と返してもらう物の差を感じた。 「いいから…。俺、あのケーキすげぇ嬉しかったし」 「そうか?ホントにありがとな。こんな事なら、もう少しちゃんとしたケーキを出せばよかったなぁ」 隣に行って、頭をがしがし撫でてやった。 生活用品とは言ったが、イルカが想像していたのは洗剤やタオルのようなものだった。 子供だからと甘く見ていた事は失礼だったと、少し反省した。 「そっちの箱、開けないのか?」 サスケが指したのは、アカデミーの机に置いてあった四つの箱。 プラス、ナルトに貰った鍋の箱。 「一緒に開けようか」 朝、これらを貰った当初はかなり戸惑ったが、時間が過ぎれば楽しみの一つに成り下がる。 綺麗に包まれているプレゼントを開いていくのは楽しい。 誰かと一緒だと尚更。 本当はカカシと二人でお茶でも啜りながら、一品一品意見を言っていくのが一番楽しいと思う。 生憎、今カカシはいないが、代わりにサスケがいてくれる。 サスケは他の人が何を贈ったのか、気になるらしい。 まずは開けやすい小さい物から順に、手を掛ける事にした。 万年筆と赤インクのセット、シーツと枕カバーのセット、カップ&ソーサーが二組入った紅茶セット。 今の所、頼んだわけでもないのに見事に実用的なものばかりが入っている。 そして四つ目の箱は他の物に比べると大分重かった。 「へぇー」 開けてみたら、有名な特級米が入っていた。 まさかプレゼントで米を貰うとは思わなかったので、サスケの目の前で大声で笑ってしまった。 それを見たサスケは、いつものすました顔ではなく、あどけない顔をして笑っていた。 「今度この米で、ナルトとサスケにおにぎり作って持ってってやるな」 笑いが止まらないままで言うと、サスケが本当に嬉しそうな顔をした。 「じゃぁ、俺、そろそろ帰る」 「おお。今日はありがとうな。また遊びに来いよ」 玄関まで見送りに行き、ドアを開けた。 サスケは少し恥ずかしそうに手を振って帰った。 |