カカシの姿が見えなくなってから、ふう、と深く溜め息を吐いた。
心音は落ち着いてきたが、触れた頬はまだ少し熱を持っている。
さっきのは何だったのだろう。
もしイルカの勘違いでなければ、ほのかに性的な雰囲気が漂ったような気がするのだが。
相手は同性で、しかも実習先の生徒なのに。
ひどく不道徳な事に思考が向かいそうになって、慌てて首を振ってそれを掻き消した。
まだ、本題の進路の件には一言も触れていないのだ。
余計な事を考えている暇はない。
近くの梯子を使ってプールから上がり、シャワー室に向かって歩き出した。
歩みを進めるごとに、体の端々から大粒の雫が滴り落ちる。
こんな情けない姿で真面目に進路の話ができるとは思えないので、着替えを用意してくれるというカカシの提案はとてもありがたかった。
首尾よく、シャワー室は4年前と同じ場所にあった。
電灯のスイッチを探しながら中に入ると、それとほぼ同時に、ぱっと明かりが点いた。
贅沢にも、こんな所に人感センサーが付いているようだ。
更に、シャワーとシャワーを仕切る壁までが新設されていて、まるで一つ一つが独立したシャワー室のようになっている。
以前は、細長い浴場に蜂の巣型のシャワーヘッドがずらりと並んでいるだけの状態だったのに。
もっとよく見てみようと思い、プールサイドから一番近いシャワーを選んで仕切りの内側に入った。
扉はなく、蜂の巣型のシャワーヘッドも変わらないが、正面と左右の壁の三面に立派な手すりが付いている。
そこをきょろきょろと見回していると、今度はスポットライトのような小さな明かりが点いた。
人感センサーの照明が、通路だけでなくシャワーの一区画ずつにも設置されているようだ。
しかも温水と冷水の蛇口まであって、試しに温水の方を捻ってみると本当にお湯が出た。
水圧だって弱くない。
プールの授業のあとに、ちょろちょろの水しか出ないシャワーを浴びていたあの頃が嘘のようだ。
「イルカ先生ー」
間延びした声に名前を呼ばれてシャワーを止め、はい、と返事をしながら仕切りの壁から顔を覗かせた。
「もう購買が閉まっててパンツ買えなかったんだけど、オレが履いてたヤツ履くのとノーパンで帰るの、どっちがいい?」
何でもない事のように尋ねてきたカカシに、気が遠くなりそうになった。
思わず目を瞑って天井を仰ぐ。
最近の高校生は、誰でもこんな明け透けな物言いをするのだろうか。
「服はオレのジャージの上下があるから、それでいいよね?」
重ねて問われ、深く溜め息を吐いた。
「…ありがとう。ジャージだけ借ります」
「リョーカーイ。タオル、こっちに掛けとくね」
水着姿のカカシがこちらにやって来て、通路の手すりにバスタオルを引っ掛けた。
もしかして、カカシは水着姿のままで校内をふらふらと歩き回っていたのか。
いくら膝上までの水着だからといっても、上半身は裸なのだ。
下校時刻を過ぎていなかったら、女子生徒に見つかって変質者扱いされていたかもしれない。
そんなイルカの心配をよそに、カカシは隣の区画に入ってシャワーを浴び始めた。
仕切りの向こう側から明かりが漏れ、ざあざあと水音が響いてくる。
シャワーを浴びているという事は、今日の練習はもう終わりなのだろう。
イルカも、濡れたワイシャツとズボンを苦労しながら脱いで、少し迷ってから下着も脱ぐと、改めて蛇口を捻った。
上を向き、顔面からシャワーを浴びる。
体が冷えていたらしく、肌を滑る温水が心地良かった。
ふっと息を吐いて肩の力を抜き、括っていた髪を解く。
「…手伝いましょうか」
後ろから、唐突にカカシの声が聞こえた。
イルカが服を脱ぐのに手間取って、蛇口を捻るまで時間が掛かったから、カカシが気を遣ってくれたのだろう。
大丈夫、と言うつもりで振り返ろうとすると、その前に、ひたっ、と音を立てて何かが体に纏わり付いた。
感触のあった方に視線を下げると、腹部に人の腕が見えた。
「え…」
「何でもするよ」
顔の真横から聞こえた低い声に目を見開いた。
視界の左隅に、独特の色をしたカカシの頭髪が入り込んでいる。
それになぜか、背中一面が温かい。
頬に何か柔らかいものが押し当てられ、それが離れる時に、ちゅ、という小さな音が聞こえた。
間髪をいれずに、今度は弾力のあるぬめったものがゆっくりと首筋を這っていく。
「えっ、えっ、なにっ…?」
状況が理解できずに混乱していると、腹にあった腕が動き出してイルカの胸の突起をいじり始めた。
もう片方の腕は下腹に移動し、大きな手のひらが脇腹やへその辺りを撫で回している。
「あ、あ、あっ」
与えられる刺激に反応して、口から勝手に声が漏れてしまう。
怖くなって腕をでたらめに動かすが、あまりの力弱さに何の意味も成さなかった。
下腹を触っていた手が徐々に下を目指すような動きに変わり、複数の指に陰毛を掻き回される。
時々その指が陰茎の根元を掠めると、咽喉の奥から声にならない声が次々と零れた。
「っ、ぁ…あっ」
「イルカ先生は、ただ感じてるだけでいいからね…」
興奮を押さえ込んでいるようなカカシの声に、びくりと体が竦んだ。
その時に僅かに身じろいだせいで、尾てい骨の辺りに熱くて硬い塊が押し当てられている事に気が付いた。
同じ男として、それが何なのかイルカにもわかる。
「あっ、ぁ…んぁっ!」
すっかり尖ってしまった乳首を捏ねるようにして擦られて、何度も体が跳ねた。
首が仰け反って、顎が上を向く。
顔に温水が当たるが、さっき感じた心地良さはもうどこにもなかった。
冷えていた体は、すっかり熱くなっている。
「はぁあんっ!」
鼻呼吸が苦しくなって口から息を吐いた途端、絶妙な力加減で陰茎を握り込まれ、一際大きな声が零れた。
カカシの手が遠慮も容赦もなく、そのまま陰茎を扱き出す。
膝が震えて内側に折れ、小便を我慢している時のような格好になり、足の力だけでは立っていられなくなった。
咄嗟に正面の手すりを両手で掴み、少し前屈みになって体を支える。
しかしそれが、却って自分から腰を突き出すような姿勢を作ってしまい、カカシの熱い部分を更に強く押し付けられた。
前からは信じられない速さで陰茎を扱かれ、それに怯んで腰を引けば、後ろからは熱い塊を押し当てられる。
もう、どこにも逃げ場がない。
「ぁあっ、あっ、やあっ!」
その間もしつこく乳首を擦られて、目に涙が浮かんできた。
「はっ、あ、あっ、あ!」
陰茎を扱いていた手が急に止まり、先端を指先でぐりぐりと抉る動きに変わった。
新たな刺激に、腰の辺りがびくびくと震える。
「声、もう少し我慢できる…?誰かに聞かれちゃうかも…」
背中をねっとりと舌で辿っていたカカシに熱い吐息混じりに囁かれ、体がぎくりと強張った。
こんな声を誰かに聞かれるのは困るけど、それを抑える術を知らない。
不意に、胸からも陰茎からもカカシの手が離され、代わりに肩を掴まれた。
いきなり体を反転させられて、僅かに出っ張っている手すりに尻を引っ掛けるようにして座らされた。
潤んだ目でぼんやりとカカシを見上げると、カカシの顔がこちらに向かって下りてくる。
「ん…、んっ、んんっ!」
唇で唇を塞がれ、舌で口内を好き勝手に舐め回される。
口端から零れる唾液は、すぐにシャワーで流されていく。
口付けられたまま、再びカカシに陰茎を握られたが、今度は少し感触が違っていた。
なぜなのかわからずに、くぐもった声を上げて体を震わせていると、手すりを掴んでいた手の片方をカカシに掬い取られた。
そのまま陰部に導かれ、自身の陰茎と、何かもう一つのものを一纏めに握らされた。
イルカの手の上からカカシの手が重ねられ、先程よりも強く早い動きで責め立ててくる。
「んっ!ふっ…!んんっ!んんー!」
とうとう抑えきれなくなって、先端から白濁した粘液を噴き出した。
それなのに、カカシの手は一向に止まらない。
そればかりか、もう片方のカカシの手までが重ねられ、自分の片手とカカシの両手に勢いよく扱き上げられる。
カカシが僅かに体を引いた事で、塞がれていた唇が唐突に解放された。
「はっ、あっ、もうっ…あっ、やっ…ぁ、あっ、あっ」
達した直後の痴戯に息が上がり、大げさなほどがたがたと体が震える。
「うっ…くっ…」
カカシの小さな呻き声が聞こえ、びしゃ、びしゃ、と立て続けに腹に生温かいものを浴びた。
ぎりぎりまで詰めていた息を吐き出すような深い吐息と共に、カカシの顎がイルカの肩へと下りてきた。






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2010.09.07