夏休みのように一週間とまではいかなかったが、週末の休日にイルカの有給休暇を一日付けて二連休を取れる事になった。

カカシの職務よりイルカの職務の方が休みが取りやすいというので、イルカがカカシの休みに合わせて休暇を取ってくれたのだ。

でも本当は、イルカにあまり有給を使って欲しくなかった。

イルカが平日に休みを取ってしまうと、次の日の仕事が二倍なり、迷惑を掛けてしまうと思ったからだ。

カカシの方は上級の任務を終えた翌日が、決まって休みになるのでそれを利用して休みを取ろうとしたが。

しかしイルカは頑なに、それを拒んだ。

イルカの言い分は、『AランクやBランクの任務が終わった翌日は、完全休養日にしなくてはならない』だった。

どうやら、アカデミーではそう教えているらしい。

はじめはカカシも食い下がらなかったのだが、イルカが『カカシの体を心配しているから、任務の次の日は休んで欲しい』と言うのだ。

感嘆の溜め息が漏れた。

こちらの心配までしてくれる、本当に気遣いのできた良い恋人を得たと思った。

そこまで言ってくれるのならと、イルカに詫びを入れながらカカシの都合に合わせてイルカに休暇を取ってもらった。

ところが、そこまでしてもらっているのに、まだ行く所が決まっていなかった。



* * * * *



今夜もイルカ宅で夕飯をご馳走になった、食後のティータイム。

イルカが最近凝り出したミルクティーを飲みながら、カカシが切り出した。

「イルカ先生は何処に行きたいですか?」

イルカが後片付けで冷えた手を温めるように、カップを両手で包み込んだ。

「そうですねぇ…」

イルカは香りを確かめるように目を瞑り、ミルクティーを啜った。

「オレはイルカ先生と一緒なら何処でもイイですけど」

「…っ、何言ってんですかっ」

少し咽せつつ、イルカが頬を染めた。

余談だが、そんな恥ずかしがりなところも可愛いなと思っている。

「俺は…紅葉がきれいな温泉とか行きたいですね。…あと、前々から凍った滝も見てみたいと思ってて」

「あ、それいいですね。イルカ先生の浴衣姿も見られるし」

「もうっ、カカシ先生!そんな事どうでもいいでしょう!」

どうでもよくはなかったが、これ以上イルカを怒らせては可哀相だと思い、大人しく謝った。

「すいません。でも、イルカ先生と二人で温泉。楽しそうですよ、行きましょう?」

「でもそれじゃ、俺の意見ばっかり…」

「オレはイルカ先生と二人きり、っていう条件を飲んで頂ければそれで充分なんです」

表情も声も少し真剣なトーンに落とした。

するとイルカは敏感に反応を示す。

「…ありがとうございます…」

自分で言うのも何だが、惚れ直したという顔をするのだ。

若干染まった目元に気付いているのかいないのか。

そんな、イルカが頬を掻いてはにかむ姿は本当に愛しいと思った。



* * * * *



当日。

朝早くに出発するなんて無謀な事を計画を立てるから、予定通りにいかないのだ。

「ごめんね、イルカ先生」

昨晩、遠足前の子供よろしく、興奮して眠れないでいたカカシは何度も何度もイルカを抱いた。

朝が来る前には終わったのだが、イルカはぐったりとして微動だにしなかった。

後処理をして自分も眠りについたのだが、その時点で朝起きる自信は皆無。

起床は全てイルカ任せなので、イルカが目を覚まさなければ自分もまた然り。

早く出発すればその分多くの箇所を回れるということで、イルカの要望で午前出発の予定になっていたのだが。

イルカは、早起きして弁当を作り、きれいな紅葉を臨めるベンチで昼食…、なんて予定を立てていたようで、カカシは出端から申し訳ない気持ちを抱え込んだ。

「これじゃぁ、旅館に着くのは夕方か夜になっちゃいますね」

「本当にゴメンナサイ。不甲斐無いです…」

旅路を走りながらイルカの顔色を伺った。

しかし、予想に反してイルカは怒っても不機嫌でもなく、苦笑しているだけだった。

「もう。謝らないで下さいよ。俺だって悪いんですから」

本当に優しいと思う。

でも、昨夜の名残で腰を気遣って走るイルカを見るとやはり申し訳なくて、抱きかかえて移動しようかと本気で考えるほどだった。

現実にそんな事をしたら確実に嫌がられるとわかっているので、イルカが疲れた時はいつでもそれが出来るように準備だけは整えていた。

「カカシ先生」

「はい!」

早速出番かと思い、勢い込んで振り返った。

イルカが足を止め、遠くを見つめていた。

その横顔が赤く染まっている。

歩いて近付き、イルカと同じ方へ目を向けた。

少し前に出てきた木の葉の里が夕日で赤く染まっていた。

まるで、里全体が紅葉しているような。

ここよりも標高の低い里は、まだ紅葉が始まっていないが。

「早起きしてないのに、得しちゃいましたね。良い門出になりました」

自然の営みを愛するイルカらしい言葉。

だが、そこから目を離さないイルカに少々ムッとした。

悔し紛れにイルカの額にかかった髪を払い、その額にキスをした。

「イルカ先生、太陽なんかに魅入られてないでオレを見てよ」

唇を尖らせて拗ねれば、優しい微笑みを返してくれる。

「ははは。じゃぁ、行きましょうか」

そしてまた走り出した。












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2002.11.15